1994年東京都吹奏楽コンクール一般の部・中学の部

東関東地区と共に、予選の最後を飾る、東京都吹奏楽コンクールを聞きに、府中の森芸術劇場に足を運んできました。
府中の森芸術劇場の大ホールは、ディレイの長い、超ライヴな響きを持っています。というわけで、サウンドの処理に甘さがあると、すぐに音がこもってしまうわけで、その辺りの対策も出場団体は必要になって来ます。

では、一般の部の感想などを、まずは代表団体から。
創価グロリア吹奏楽
ここ数年安定して代表になっているバンドらしく、その音の粒立ちはお見事。というかそれを持続させているところに素晴らしさを感じます。今年の課題曲5番は、よりバーチャルなサウンドが求められる楽曲。数多く聞いてきたこの課題曲5番の中でも、最も理想的な音色で聞かせてくれました。特に、不規則に飛び交う音楽の構成要素のコントラストはお見事。終盤、浮き上がってくるような低音の演出まで、喉を鳴らすのも憚られるような世界観を持っていました。自由曲の役人は、余裕を持って、品よく仕上げられていたと思いますが、課題曲に緊張感がこもり過ぎていたからか、やや淡々としたあっさり味のバルトーク作品になっていました。

東京隆生吹奏楽
こちらも、ここ数年の東京代表の常連ですね。一般のバンドというのは、全員が集まって合奏をする事がなかなか困難なばかりか、個人練習も仕事でままならないという中で、アグレッシブな楽曲を選ぶのはためらわれがちです。が、そこにチャレンジして来たその姿勢にまずは拍手を送りたいと思います。課題曲は、勢いを持ったポジティブなマーチでしたが、第一主題がやや暗い響きで聞こえてきたのが残念。しかしその後は、徐々に本領を発揮していった感じでした。自由曲は、まだまだ発音ミスや高音の処理等、修正部分はありますが、全体を通して楽曲特有のグルーヴ感をよく再現した好演でした。特に終盤のうねるような音楽の演出力はお見事。全国大会には更に精度をあげて来る事を期待していたいと思います。

そのほか、金賞を受賞した、板橋区吹奏楽
非常に安定感のあるサウンドと、高い演奏力が光っていました。ただ、代表バンドに比べると、中低音がやや弱いかな、というのと、サウンドにエッジが足りないかな、というのがこの会場で聞いた印象でした。また、音楽の場面に合わせたサウンドの質の変化なども欲しかったところです。
デアクライス・ブラスオルケスター
熟練した指揮者のもと、高い演奏力を誇るバンドで、その重厚なサウンドと、安定したハーモニーが心地よい演奏でした。ただ、ややらしからぬミスが散見されたのと、高音ブラスの発音がやや曖昧になってしまっていたのが残念でした。

続いて銀賞となった、豊島区吹奏楽は、懐の広いサウンドは健在でしたが、全体的に音楽がもっさりとしていたのと、サウンドの粒立ちの悪さが気になりました。自由曲は、斬新なアレンジ物の方が合っているような気がしますが・・・・。ソウル・ソノリティは、芯の通ったサウンドは健在でしたが、今回は特に中域のサウンドか希薄で、高音と低音が強調されて聞こえてくるというバランスの悪さか気になりました。しかし、課題曲5番から、レミゼへの流れの作り方は、非常に心地よかったと思います。
NTT東日本東京吹奏楽は、重厚なサウンドを持っていながら、クリアさに欠けるためか、旋律が浮き立って来ないのが気になりました。また、アンサンブルももっとタイトにスキルアップして欲しいところです。そしてミュゼ・ダール吹奏楽は、いつもの大音量をホールいっぱいに轟かせていましたが、楽器によっては、そのサウンドの限界を越えているものも散見されました。今の音量の8割ぐらいになったとしても音量は充分なので、より美しいそれぞれの楽器の音色を追求する方にベクトルを向けてみては如何でしょうか。演奏力が高いバンドだけに、そんなことを思った次第です。

そして銅賞となった、プリモ・アンサンブル東京は、いつもながらの大人なサウンドを聞かせてくれました。ただ、特に低音の発音にブレが感じられたほか、ハーモニーの重ね方等も、更に丁寧なアプローチが求められるところです。また、音楽の場面ごとに、明確なメリハリとサウンドの変化を付けることもこの部門では求められるでしょう。早稲田吹奏楽は、よくまとまったアンサンブルと合奏力の高さが印象的でした。ただサウンドがこもり気味なのと、音楽の流れが淡々としすぎていたのが、残念。また、強奏部分で、ややサウンドが破綻してしまう点には気を使って欲しかったところです。そして、足立吹奏楽は、ちょっと懐かしい選曲で会場を和ませていました。サウンド的には中低音が弱く、音楽にメリハリがついていなかったのが残念。ソロ楽器の響きなどは非常に美しいものを持っていましたが、全体とのコントラストをどう付けて聞かせるのか、そういう部分への配慮も求められる事でしょう。

そして残念ながらタイムオーバーで審査の対象外となってしまった、葛飾吹奏楽でしたが、課題曲はクリアで安定したマーチが心地よい好演でしたが、その分音楽が全体的に淡々とし過ぎてしまったようです。ハーモニーと旋律がよりクリアに響き、聞こえてくるようになれば、その音楽は激変するのではないかな、と思わせるサウンドと音楽でした。

さて、この日は一般職場の部のあと、中学校の部が開催されました。
その中て見事に代表になったのは、小平市立第三中学校
去年まで小平六中を率いていた先生が今年から三中に赴任。わずか半年で三中を代表に復活させました。課題曲3番、冒頭はやや、謳い込み過ぎかなという印象でしたが、場面ごとに更に音色の変化を演出すると鬼に金棒となるでしょう。サウンドのエッジも心地よく、楽曲の世界観を的確に再現していました。自由曲は、今年の中学の部の流行りの1曲。時折顔を覗かせる大人なハーモニーも、臆せず安定して奏でる演奏力はお見事。ここ数年の東京の中学は激戦区の様相でしたが、今回の三中の演奏は、中学の部の中でも突出した名演だったと思います。

そしてもうひとつの代表となったのが、こちらも代表復活となった、玉川学園中学部
非常に柔和なサウンドが他の中学バンドと一線を画するのに功を奏していました。課題曲2番は、その柔らかなサウンドにより、明るいというよりは美しいマーチを演じていましたが、終始停滞感が漂い、いわゆるマーチとしての推進力に欠けていたのが残念でした。美しい中にも、明るい輝きや、時に力強さも、マーチという楽曲の中では感じさせて欲しいところです。自由曲は、もともと硬質なオーケストレーションを持っている楽曲を、その柔らかいサウンドで、時にしっとりと、時に囁きかけるように奏でているのが印象的でした。しかし、終盤になっても、サウンドの質が変わらず、訴求力を持たないまま音楽が終わってしまったようです。中盤以降、サウンドの変化やテンポ感などでより説得力のある音楽に生まれ変わる事を、全国のステージは期待したいところです。

その他の金賞団体、まずは羽村第一中学校は、持ち前のエッジのある金管を中心としたサウンドは健在でしたが、トロンボーンやチューバ等、低音ブラスと全体のバランスが悪く、終始ボンボン鳴り響くだけの音楽になっていたのが残念。交響的断章も、今の中学生の志向とはややベクトルが違ったかも知れません。青梅市立第六中学校は、21名という人数での好演でこの日のオーディエンスの大喝采を浴びました。課題曲4番は、やはりこの人数で吹きこなすには無理があったようで、持ち替え等で頑張っても、ところどころでミスやバランスの悪さを露呈してしまいました。しかし、自由曲は一変して、持ち替えも完璧な名演。You Tube時代ならではの見栄えも素晴らしい演奏力で、会場全体を魅了しました。久々に鳴りやまない拍手というのを体感しました。そして、小平市立第六中学校は、指導者が代わった事もあり、バンドとのコンビネーションにやや違和感を感じる演奏でした。奏者達は演奏力の高さを見せていましたが、終始旋律が聞こえてこないなど、音楽的な処理に一考が必要なようです。しかし、サウンドを持っているバンドだけに、次なる巻き返しに期待しましょう。

というわけでこの日は、大編成ならではのダイナミックなサウンドと魂のこもった音楽から、小編成によるアクロバティックながらも音楽心を大切にしたハートに響く音楽まで、あらゆるタイプの音楽に触れられた、幸せな1日となりました。