東京都吹奏楽コンクール・職場一般の部

さて、昨日行われた東京都吹奏楽コンクール一般の部本選。
感想を書いていたら、ちょいと長くなってしまったので、大学の部とは切り離して、雑感などを。

まずはトップバッターの創価グロリア吹奏楽。ここ数年は力がありながらも苦杯を嘗めていたバンドである。課題曲3番という選択は意外だったが、今年聞いてきた3番の中でも秀逸の出来ばえで、非常にバランスの取れたサウンドが心地よかった。時折旋律が不明瞭になったり、またシロフォンの部分のコンビネーションが不安定だったりとややアンサンブルに不安も見られたが、音楽の輪郭は非常に明瞭だったと思う。自由曲はローマの祭り。このバンドの十八番のひとつではないかな。冒頭の弱奏の安定感はこのバンドならでは。譜面に描かれたひとつひとつの要素が過不足なく奏でられ、打楽器と管楽器のバランスも絶妙で、華やかにクライマックスを迎えた感じだった。ソロの綻びは、次への課題だろう。これで、長いトンネルをやっと抜けきったようだ。

続いて、豊島区吹奏楽。老舗バンドのひとつである。課題曲1番の冒頭はハーモニーが崩壊してヒヤリとさせられたが、持ち前の重厚なサウンドと経験でその後を持ち直したのはさすが。しかし、全体的に音楽的な主張に欠けたのと、随所で中音域のハーモニーの不安定さが残念だった。自由曲も、よくこなれた解釈と演奏ではあったが、最終的にどんな音楽を描きたいのか・・・・その辺が曖昧だったような気がする。

続いて、ミュゼ・ダール吹奏楽。豊富な音量を持つバンドであるが、課題曲5番は、高い技術に支えられた緻密な演奏を聞かせてくれた。ただ全体を通して、打楽器と管楽器のバランスが悪く、音楽の中身に集中させてもらえなかったのが残念だった。アグレッシブさが打楽器ではなく、管楽器で付けられるようになれば、また一皮むけたバンドになるのではないかと思う。バランスといえば、自由曲はそのバランスを良く研究した快演だった。

続いて東京ウインドハーモニーオーケストラ。課題曲は5番だったが、この曲を演じきるにはややサウンドがエッジ不足で、音像が曖昧になってしまっていたのが残念。自由曲は一転して、このバンドのマイルドなサウンドが、オペラの世界をうまく表現していたが、全体を通して、音楽的な表情が画一的で、変化に乏しかったのは残念だった。

そしてここ2年連続代表権を獲得しているリヴィエール吹奏楽。課題曲4番のマーチは華やかなファンファーレでスタートしたが、マーチに入ると、スネアのリズムがやや転び気味で、いまひとつ安定感に欠けたのが残念だった。しかし、バンド全体のサウンドの美しさは秀逸で、こなれた指揮者が作り出そうとしている世界観を見事に再現していた。自由曲は、バーンスタインの弟子が師匠が書きかけた譜面をなんとか完成させた・・・・みたいな楽曲だったが、課題曲同様、非常にクリアで完成されたサウンドが、全てを凌駕していた感じだった。もっと魅力的な楽曲を聞いてみたいサウンドだったのだが・・・・。これで、リヴィエール吹奏楽団は3年連続出場となった。

前半最後に登場したのは、東京大学ブラスアカデミー。課題曲2番は、大編成バンドが挑戦して悉く楽曲に振り回されてしまっている感じだが、やはり、音楽全体がまったりと冗漫になり、アンサンブルを完成できないまま終わってしまった感じだった。自由曲では安定したアンサンブルを聞かせていたが、サウンドブレンド感がいまひとつで、音楽がまとまりきっていなかったのが残念だった。しかし、木管を中心に非常に艶のあるサウンドを持ったバンドである。

さて、後半最初に登場したのは、東京シティブラスオルケスター。個々の奏者の技術力は高いものを感じさせたが、課題曲1番の陽気すぎる演出はやや作曲者の意図と逆行するものではないかと思われた。自由曲では、冒頭の弱奏は美しいサウンドだったが、ハーモニーのバランスがいまひとつだったのが惜しい。また、中盤から後半については超爆走テンポ設定に奏者が振り回され、細かいフレーズは置いてきぼりという演奏だった。しかし、奏者達も納得ずくなのであれば、それはそれでひとつの個性になるのかも知れない。

続いて、Say No Yes Yes 吹奏楽チーム。課題曲4番は、華やかでバランスの取れたファンファーレが決まり、マーチ全体を通しても、推進力と安定感が見られたが、やや細かい綻びが見られたのが残念だった。自由曲は学生の演奏は何度か聞いたことかあるが、大人のサウンドで演奏するとこうなります的な重厚感溢れるバランスの取れた演奏だったが、ここまで演奏力があるのなら、大人のバンドならではの選曲も聞いてみたい感じがしたのも事実。指揮者は予選と違う人だったようだが、非常にシャープな棒裁きが音楽を安定させていたようだ。

そして常連の、東京正人吹奏楽。課題曲2番は、大編成バンドが取り上げて悉く失敗していくのを、今年は随所で見てきたが、そんな中ではこのプチ・マーチをグランド・マーチ風にしっかりと仕上げてきたなという印象だった。ただ、このバンドの特性を最大限に生かす選択ではなかったような気もする。このバンドは近年その弱奏の安定ぶりを聞かせる自由曲の選曲をしていて、今回もそうしたライン上のものだったが、非常に重量感があり安定したサウンドを持っているならば、限られた時間で評価されるコンクールという場においては、ややアプローチする方向が違うのではないかなと思わせる12分間だった。もちろん個々の技術も音楽全体の完成度も代表クラスにあると思うのだが・・・・。

続いてNTT東日本東京吹奏楽。今年から一般の部に統合となり、激戦区の東京予選を見事勝ち抜いてきた。おそらくこれまでの職場の部では、トータルなサウンドと音楽作りで充分に勝負できたのであろうが、一般の部ではそれだけでは上に這い上がって行くことは出来ないのである。たとえば、木管サウンドは、鉛筆で言うところの3Hぐらいの硬いサウンドで終始していたが、一般の部のフィールドでは5Hから2Bぐらいまでの幅広い種類の音色を使い分けなければならない。全体としての音楽的な評価は今回も高かったはずなので、次に向けて個々の楽器の音色のバリエーション作りや、パワーではなく音の深みでの音圧作りが必要なのだと思う。しかし、バンド全体の集中力や指揮者の引き出しぶりは高いレベルにあると思わせる熱演だった。

続いては老舗バンドの葛飾吹奏楽。伝統のあるバンドである。課題曲5番は、楽器間の音の受け渡しがいまひとつスムースにいかず、フレーズが途切れがちになってしまったのが残念。また全体的に打楽器の音量が過多で、特に木管楽器サウンドが打ち消されてしまう場面が随所で見られた。また逆に、木管サウンドにもっと重厚さが欲しいような気もした。自由曲においても全体的に旋律が不鮮明で、説得力に欠けていたが、バンド全体としてはオーソドックスで重厚なサウンドを持っているなという印象だった。

さ、そしてこの日の大トリは、東京隆生吹奏楽。課題曲4番は、さすがに昨今のコンクール事情をしっかりと把握している指揮者だけあって、全体のサウンドのバランスの取り方が実に絶妙だった。ただ、時折マーチの推進力にブレーキがかかったり、中盤以降綻びが見られたのが残念だったが、総じてよく音楽としてまとめられていたと思う。続く自由曲の冒頭は、無難にこなしていたが、全体的にやや緊張の糸が途切れ始めた感が漂ったのは残念。今回は元のアレンジを金管中心のものに書き換えた部分があり、それは今のこのバンドのサウンドを考えると、成功と言えるようだったが、全体的に華やかさと激しさの中にも、丁寧さみたいなものが欲しかったな、と個人的に思ったのである。しかし、さすがにクライマックスに向けてのほどよく濃厚な音楽作りは見事だった。

というわけで、今年の東京都吹奏楽コンクール一般の部は、創価グロリア吹奏楽団が5年ぶり6回目リヴィエール吹奏楽団が3年連続3回目の代表権をゲットした。