TAD W.S.と早稲田吹奏楽団の演奏会

2つの吹奏楽団の演奏会をハシゴして来ました。
まずは、王子の北とぴあで行われたTADウインドシンフォニーニューイヤーコンサート

王寺駅について「すいません、きたとぴあってどっち方面ですか」と尋ねたら、一瞬の沈黙があって、「あ、ほくとぴあですね」。
というわけで、北とぴあと書いて、ほくとぴあと読むのだそうです(笑)。
さてさて、本題。以前からトランペットのメンバーに友人がいるので誘われていたのですが、いつも間近に日程を知らされたので、なかなか行けず、今回は、夕方に行く公演に間に合いそうという事で、まずはこちらに足を運びました。
プログラムは、
【第1部】
クレセント・ムーン/ヤン・ヴァン=デル=ロースト
冬物語/フィリップ・スパーク
古いアメリカ舞曲による組曲/ロバート・ラッセル・ベネット
【第2部】
フライト/クロード・T・スミス
ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス/デーヴィッド・R・ギリングハム
クラウン・インペリアル/ウィリアム・ウォルトン

というラインナップ。ローストやスパーク、スミスの作品は、指揮者の鈴木孝佳氏にはストライクの作品でしょう。
それにしても、演奏がスタートすると同時に、サウンドがまさに一塊になって客席に飛んでくるのが圧巻。またひとりひとりのサウンドが骨太で、それらがピタリと足を揃えて融合されているので、倍音がハンパじゃ無かったですね。これだけ倍音があると、聞く場所によっても、融合された響きの違いを楽しむことが出来るのではないてしょうか。
また鈴木氏のアナリーゼも素晴らしく、あちこちでよく耳にするウィズ・ハート・アンド・ヴォイスの中盤あたりはこれまでに聞こえてこなかった音の重なりが体験出来て、極上のサウンドに包まれる幸せを感じました。各楽器のバランスも素晴らしく、楽譜に書かれているひとつひとつの要素が過不足なく聞こえ、そんな中でも旋律をしっかりと浮き立たせているという、音楽の大切な要素をいくつもクリアした完成度の高さでした。
本編最後のクラウン・インペリアルの後半は、凄まじい低音楽器の融合サウンドが会場を支配していました。
更にアグレッシブなプログラムでまた聞きたい、何度でも聞きたいサウンドです。
アンコールは、グリーン・スリーブスのニューアレンジと、ジェイガー作曲、ツール・ド・フォースでした。

さ、アンコールが終わると同時に王子を後にして、中野に向かい、中野ゼロボールで行われた早稲田吹奏楽定期演奏会に行きました。
去年のコンクール職場一般の部東京予選で聞いて以来、必ず演奏会に行こうと思っていたバンドのひとつです。
プログラムは、
第一部
1.空中都市「マチュピチュ」〜隠された太陽神殿の謎〜(八木澤教司)
2.オクトーバー(E.ウィテカー)
3.ゴールド・ラッシュ(高橋伸哉)
4.シンフォニエッタ第2番「祈りの鐘」(福島弘和)
第二部
Special Stage
5.ロスト・ムーン〜マン・オン・ザ・ムーン〜エピソード2〜(清水大輔
第三部
6.「トリトン」全曲版(長生淳
アンコール
陽はまた昇る(P.スパーク)

という気合の入った内容。
演奏も勿論気合は充分で、中低音域が充実したサウンドと共に、安定した音楽を展開していました。
特に第二部は、ナレーションとスライドを使い、アポロ13号の悲運ながらも地球帰還まで英知を結集したNASAの人々の活躍ぶりを声のドラマ仕立てで再現しながらの演奏。
続く第三部は、トリトンの全曲版と、アンコールに、311への思いを作曲家のスパーク氏がセルフ・アレンジという形で表現した「陽はまた昇る」へと、非常に骨太なメッセージを持ったコンサートでした。その企画力と実行力に拍手を送りたいと思います。
そんな中で、気になった部分もちらほら(笑)。まずは、大所帯での演奏という事で、ややピッチに不安が残るパートやメンバーがちらりほらり。今回のステージでは、人数の圧力でそれを凌駕していましたが、コンクール等の比較評価になると、やはりマイナス点になってしまうのは否めず、少しの揺らぎも許さないという高い目標で、楽曲に対峙するという姿勢を維持してもらいたいところです。勿論全体としての音楽そのものには揺らぎは必要ですが(笑)。
また、パートの中で、同じをフレーズを奏でる奏者同士にまだまだバラツキがあるようで、同じ音量で旋律を吹いても、その旋律が浮き立たないという場面がちらりほらり。ハーモニーの安定もさることながら、旋律も本当に注意をしないと、微妙なズレや揺れには気づかないもの。そういう部分でのモチベーションアップも図って、それを克服した時に感じる、ひとつの音楽を複数の人数奏でる事の喜びの絶頂点を味わってもらいたいものです。
あと、第二部の演出は素晴らしかったのですが、残念ながら私の席では、ナレーションがほとんど聞こえませんでした。まあアポロ13のストーリーは知っていたので大体どんなことを言ってるのかは想像付きましたが(笑)。リハーサル時にバランスを緻密に取るか、或いは、スライドにセリフ(ダイジェストでも)を書くか、やって欲しかった感も。
さてさて、内容の濃いプログラムの中でも、第三部の「トリトン」の集中力は素晴らしかったですね。今年は自由曲をここいら辺りに持ってくるのでしょうか(笑)。全体のサウンド的には、ダイナミックレンジのバランスが非常にいいのですか、今後の課題は高音楽器の音楽のシーンによるサウンドの変化と、演奏力の確実性のアップでしょうか。腹筋をしっかりと使った骨太ながらも繊細なサウンドを目指して欲しいところです。また、速いフレーズには、とことん正確さを求めて!
そういう意味で、アンコールの「陽はまた昇る」の演奏には非常な感銘を受けました。旋律がややピッチに不安を感じたのだけが残念でしたが、落ち着いたハーモニーの受け渡しが素晴らしく、また指揮者の音楽の唄い方にも好感が持てる演奏で、スパーク氏のメッセージは、解説は無くともしっかりと聴衆のひとりひとりに伝わった事でしょう。演奏後、おそらくこの演奏会で引退するであろうメンバーのやり切った感のある表情が、この演奏会の成功を物語っていたと思います。
終演後は、演奏会の余韻を雑踏に邪魔されたくなく、中野駅ではなく、東中野駅まで住宅街の静寂と音楽の余韻に浸りながら歩きました(笑)。