東京都大学吹奏楽コンクール

京都大学吹奏楽コンクールというのは、いわゆる東京都大会前の大学の部の予選で、ここから6校が選ばれ、更に東京都大会で、東京代表か選出される。今年の東京代表の枠は1団体。非常にレベルの高い大会の中での1団体選出というのは厳しい。
というわけで、予選の中で、印象に残った団体をいくつか。

まずはトップバッターの立正大学。課題曲5は、非常に明快なアナリーゼによる演奏だったが、管楽器と打楽器のバランスがいまひとつのような印象を受けた。あと低音系のブラスが少々割れ気味なのも、気にはなった。しかし、朝一番という順番の中にあって、さすがに都大会選出常連校と思わせる存在感を見せていた。また指揮者は一般バンドでも何度も全国大会にでている佐藤正人氏だけあって、さすがに課題曲5の持つ意味をよく理解した演出だったと思う。自由曲は、ラフマニノフのシンフォニックダンス45番。このバンド特有のエッジのあるダイナミックなサウンドをよく生かしきった演奏だった。ただ時折、主旋律をそのほかの要素が消してしまう部分が見られ、この辺の整理と修正が望まれるだろう。

続いては、去年全国大会で金賞を受賞した、玉川大学。去年の指揮者はその金賞で勇退となり、今年は、アンサンブル・リベルテ等の指揮て知られる、福本信太郎氏が棒を振ることになったようだ。まずは課題曲5。スタートと同時に、サウンドが変わったなという印象を強く受ける。これまでのまろやかなサウンドに一本芯のようなものが通った印象のサウンドで、音楽の輪郭がより鮮明になって来たようだ。全体のサウンドのバランスも非常に心地よく、音楽が流れるように進んでいったが、その分、オーディンスの心を引き止める何かが欠けていたのが残念。もちろん、こってり味あっさり味、どちらがいいというわけではなく、好みの問題であるわけだが。自由曲は長生淳作曲、楓葉の舞。この楽曲そのものが、輪郭のハッキリとしない曲だけに、まろやか味のあるこのバンドのサウンドには、いまひとつミスマッチングだったかも知れない。が、非常にレベルの高い音楽だったのは間違いない。

さ、続くバンドも全国大会金賞を多数経験している、中央大学。課題曲1の冒頭から、非常にクリアなサウンドと、パーカッションがややズレ気味だったのとで、目がバッチリ覚めてしまった。指揮者の小塚類氏は、その独特な課題曲の解釈で知られるが、今回の1番も、これまでに全く聞いたことがないような音の処理を施していた。去年はやりすぎな感じがしたのも事実だが、今年の解釈は個人的に面白みを感じた。またサウンドも、これまでの乾燥したものから、潤いを持ったものへと変化し始めていて、その完成型がどんなものになるのかも楽しみだ。自由曲はエルガーエニグマ変奏曲。冒頭から、バンドと楽曲の世界観にオーディエンスを引きずり込む名演だった。そしてこのバンドのクリアなサウンドは、この楽曲において最大限に生かされ、音楽が縦横無尽に飛び交う感じで、非常にクオリティの高い音楽に仕上げられていた。

そして、ここ数年の東京都の大学をリードしている感じの駒澤大学の登場。課題曲3の冒頭はやや入りが乱れてヒヤリとしたが、楽曲が進むにつれて、今年もこのバンドの揺るぎないサウンドと音楽は健在だと認識させてくれる演奏だった。特に特筆すべきなのは、旋律が、風が吹いても微動だにしない炎のごとく、強い意志を持って仁王立ちしていることだろう。ただ、例年はこの予選の段階で完璧な演奏を聞かせるバンドだったが、今年は特に課題曲においてややほころびが見えたのも事実。都大会ではより完璧な音楽を聞かせてくれるのを期待したい。また自由曲の選択も少々レトロな時代の良きアレンジものを選んでくるというセンスが嬉しい。今年の駒澤大学の自由曲は、ベルリオーズの幻想校交響曲。懐かしさ半分、新たな発見半分という感じで、他のバンドとは一線を画す個性的な選曲は、これからも続けてほしいものだ。東京の大学の部はこうした個性がそれぞれの大学に表れているから面白い。

続いて、東海大学。課題曲3の冒頭から、かなり気合が入っている印象を受けた。記譜されている音楽を丁寧に拾い上げ、丹念にその要素を積み重ねたという印象を持った。が、音楽そのものはそれで流れて行くが、このような楽曲の場合、音符と音符の間を繋ぐためにサウンドの受け渡しというのが非常に重要となって来る。このバンドはまだその域までは仕上げていなかったのが残念だった。自由曲は、指揮者自身のアレンジによるドービュッシーの海。ここでも、例えば音を持続しながらサウンドに変化をつけることで再現するどビュッシー独特のハーモニーの妙を演出するまでには至らなかったのが残念。音楽の色のバリエーションが欲しいところだ。例えば弦バスが存在する意味とか、打楽器にはなぜこんなにマレットが多種あるのかとか・・・・音楽の事を追求し出したら、若い時というのは、キリがないはずだ。

そして、創価大学。このバンドのサウンドは非常にクリアという以上に派手で破壊力があるのが特徴。なだけに、常にオーバーフローになりやすい危険性を持ち合わせているのである。課題曲5では、そのサウンドの特徴が良い方に現れ、非常にすっきりとした骨組みの音楽に仕上がっていた。一転して自由曲では、今回の会場に限った事なのかも知れないが、全体的にオーバーフロー気味になってしまっていたのが残念。また管楽器に対する打楽器のサウンド作りというのも、考えた方が良いのではないかと思われる。全体を通して、音楽が指揮者を中心に締まるといういうよりは、うまくブレンドされずに広がってしまう傾向にあり、個々の演奏者の技量が高いだけに、それを正の方向に導いてあげれば、格段に音楽的なレベルはアップするものと思われる。

最後に、東京農業大学。課題曲の冒頭から、ハッとさせられた。おそらく課題曲5において、この楽曲が本来持っていたと思われるある種の緊張感を、最もよく再現した演奏だったと思われる。ただ、若干のピッチの悪さや演奏における傷が見られたのが残念。さて、自由曲はバッハの曲を田村氏がアレッジしたもの。ここでも、その抜けの良いサウンドと、アンサンブルやハーモニーの完成度の高さは提示されたが、楽曲の選択がこれで良かったのかどうか。バッハの曲を中途半端に打楽器の裏打ち等で広がりをもたせた作品だろうと思われるが、更に、このバンドのサウンドのいい部分を引き出すことの出来る楽曲であったかどうかも疑問だった。来年はぜひ的を得た選曲で、次のステップへの階段を登って欲しい、そう思わせるプレイヤー達だった。

というわけで、東京都大会に駒を進めたのは以下の学校

立正大学吹奏楽部(指揮:佐藤正人) 
課題曲 5: 風の密度(金井 勇)
自由曲 : 交響的舞曲より第3楽章(S.ラフマニノフ/佐藤正人
玉川大学吹奏楽団(指揮:福本信太郎)
課題曲 5: 風の密度(金井 勇)
自由曲 : 楓葉の舞(長生淳
中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部(指揮:小塚類)
課題曲 1: 架空の伝説のための前奏曲(山内雅弘)
自由曲 : エニグマ変奏曲より(E.エルガー/築地隆)
駒澤大学吹奏楽部(指揮:上埜孝)
課題曲 3: パルセイション(木下牧子
自由曲 : 幻想交響曲より第5楽章(H.ベルリオーズ/M.ロジャース)
東海大学吹奏楽研究会(指揮:定岡利典)
課題曲 3: パルセイション(木下牧子
自由曲 : 海より風と海との対話(C.ドビュッシー/定岡利典)
創価大学イオニア吹奏楽団(指揮:磯貝富治男)
課題曲 5: 風の密度(金井 勇)
自由曲 : 宇宙の音楽より(P.スパーク)

その他の金賞大学
東京農業大学全学応援団吹奏楽部(指揮:隠岐徹)
課題曲 5: 風の密度(金井 勇)
自由曲 : 前奏曲変ホ長調(J.S.バッハ/田村文生)