東京都高等学校奏楽コンクール4日目最終日

東京都高等学校吹奏楽コンクールというのは、東京都大会の予選で、高校Aの部は、4日間にわたって開催される。その中から、毎日3団体ずつ、合計12団体が、東京都大会に駒を進める。これまでは6団体だったが、今年から一気に倍に増えた。

というわけで、最終日の今日は、朝一番から可能な時間まで聞いて帰る事にした。その中から印象に残った団体を。

まずは、トップに登場した、江戸川女子高等学校。このバンドは、都大会にも何度も出場した事のある伝統校。課題曲3のスタートと同時に、重量感のあるサウンドが耳に飛び込んでくるが、ややもすると重量感があるだけに旋律や音楽を構成する要素のひとつひとつが不明瞭になってしまう場面がいくつか見られたのが残念だった。また音楽の流れも、時折滞りがちで、こうした無機質な楽曲の場合は、いかに流れをうまく作ってオーディエンスを引きつけ続けるかが大切となってくる。もうひとつ、サウンドの艶の無さも、やや気になった。さて、自由曲は「走れメロス」。こちらは課題曲とうって変わって、非常に輪郭のハッキリとした音楽を演出していた。ただ、管楽器と打楽器のバランスがいまひとつ悪かったのは残念。基本的な技量のしっかりとしたバンドなだけに、課題曲のアナリーゼや、もうワンランク上のサウンド作りを頑張って、また新たな伝統を作ってもらいたいと思う。

続いては、都大会及び全国大会の常連校のひとつ、駒澤大学高等学校。課題曲1はスタートからシーンの演出が手慣れている感じで安心感をもって聞いたが、トランペットの主題が、ややハズしてしまったのが非常に残念。またGからのクラリネットは少々抑えすぎで、ユーフォのオブリガードに隠れないようにしてもらいたい。中間部は全体的に旋律が埋もれがちで、この辺は修正が望まれるところだろう。しかし、後半のクライマックスにかけての盛り上げはさすがで、百戦錬磨の指揮者の元、立体感のある音楽に仕上げていた。自由曲はバルトーク管弦楽のための協奏曲。冒頭のホルンはもっと安定感が欲しかったが、主張を持ったサウンドは頼もしい。その後のクラはもっとボリューム感が欲しいところ。中盤以降は、駒澤サウンド全開のままクライマックスへと突入して行く感じで圧巻だったが、全体的に木管サウンドによるこの楽曲独特のうねりを、もっと演出して欲しかった。木管金管のバランスを絶妙に演出できれば、圧倒的な説得力を持つだろう。それが出来うるだけの技量とサウンドと音楽を持っているバンドのはずだ。もちろん、文句無しの金賞代表。

続いて、都立立川高等学校。課題曲1は、やや安全運転の感はあったが、安定した音楽を展開していた。しかし、たとえば、トゥッティの部分では、すべての楽器が均等に強奏している感じで、そんな中でも、しっかりとバランスを取って、いろんな感情を演出してもらいたいもの。ただボリュームが大きくなったというだけでなく、そんな時でも音楽の輪郭を失わない細かい配慮が欲しい。さて自由曲は、アルプスの詩。こちらは課題曲とはうって変わって、奏者たちが自信をもって音楽しているのが手にとるようにわかる演奏だった。冒頭のソロ楽器も安定し、嵐の部分の演出もよく練られた音楽を作り上げていた。ただもう少し感情的な昂りが音楽に乗り移るともっとシーンがクリアに伝わったかも知れない。しかし、非常にフレッシュな音楽に心清められた、という感じだった。

続いて、午前の部最後の都立国立高等学校。課題曲3の導入部は、やや低音楽器のバランスが悪く、安定感に欠けてしまった。その後は、安定した音楽を展開するが、ともすると、旋律の表現がやや一本調子で、音楽が平坦になってしまったのが残念。音楽の全体像が出来上がったら、次は「いかにして歌うか」という段階までチャレンジしてもらいたいものだ。さて、自由曲は、ホルジンガーの春王。非常によく鍛練を積んだという感じの演奏だったが、管楽器と打楽器のハランスが悪く、打楽器協奏曲のようになってしまったのが残念。やはり、音楽の組み立ては管楽器でしっかりと作り上げて、そのエッセンスとして打楽器の音を配置する・・・・もちろん例外もあるが、そうした基本を忘れないでもらいたい。しかし、都立高校の中でもハイレベルな演奏を聞かせてもらえたのは嬉しい。

さ、そして午後の部、都立杉並高校木管の愁いのあるサウンドを中心とした響きの非常に美しいバンドとして知られている。課題曲1の冒頭からそのサウンドは健在で、楽曲の持つ世界観を的確に表現していたが、その後ブラスサウンドが混ざって来ると、やや線の細さが気になった。またテンポもやや早く設定していたせいか、時折アンサンブルが乱れてしまったのが残念。しかし、中間部は、やはり木管の流麗なサウンドが、早いテンポ設定の中でも美しく音楽を奏でていたのはさすがだ。全体として完成まであと一歩、そんな印象を受けた課題曲だった。そして自由曲は、スペイン狂詩曲。ここでも、冒頭の木管の奏でる世界観は一級品。しかし、全体として中域の楽器によるアンサンブルがもうひとつで、直情的なスペインになってしまっていたのが残念。情熱の国ならではの感情の機微を音楽として演出できるか、都大会での演奏を楽しみにしていたい。もちろん文句無しの、金賞代表獲得。

というわけで、ここで仕事のために、会場を後にすることとなった。鈴木正人氏の振る明大明治の演奏が聞けなかったのは残念だが、それは都大会までのお預けとしておこう。
こうして3日間、予選大会を聞いてきたが、代表になった学校とそれ以外の学校の明白な違いは、まずは、打楽器と管楽器のバランス。金賞受賞団体でもバランスの悪い団体がまだまだ多く存在していたのは残念。そして次に、課題曲へのアプローチ。いかに課題曲と真剣に向き合い、アナリーゼを行い、完成度を高めていくか・・・・それがしっかり出来ている団体がやはり代表権をゲットして行った。反面、課題曲はもうひとつだけど自由曲は感動した・・・・という団体は、代表までいま一歩届かなかったと思う。

代表となった団体には、東京都の本選で、予選をさらに上回る音楽を披露してもらいたいものだ。そして、演奏した皆さん、運営に携わった皆さん、暑い中、早朝の大停電という嫌なおマケまでついたお盆の最只中、ご苦労様でした。