九州吹奏楽コンクール中学校の部

吹奏楽コンクール九州大会が今日からスタート。第一日目は、中学校の部。常勝の福岡勢、昨年代表に食い込んだ鹿児島勢、宮崎勢、そしてここ数年で飛躍的に力を付けていた沖縄勢など、群雄割拠の時代にあるこの部門は、聞きどころの多い部門のひとつだろう。その中から、印象に残った団体の感想を。

まずは、沖縄市立美里中学校。5年ほど前だったか、久々に九州大会を聞きにきた時に、かつて九州代表を独占していた沖縄の中学校の凋落ぶりに唖然としてしまった事をあったが、ここ数年は、聞くたびに力を付けて来たなという印象を持っていた。果たして、朝早い出演順にもかかわらず、非常に重厚で安定したサウンドから課題曲はスタートする。が、重厚であればあるほど、音楽における抑揚を細かく付けていかなければ、音楽そのものがまったりとしてしまう。課題曲は、ややそのマイナス部分が強調された結果となった。が、個々のプレイヤーの技術の高さを窺い知れる演奏ではあった。そして自由曲では、更にその技術力の高さを見せつけることになり、パーカッションの効果音も適切で、サウンドのバランスも安定し、フィナーレまで音楽が持続し続けたのは良かったと思う。しかし、作曲者のオーケストレーションに頼る事なく、音楽的な表情を付ける事の出来るレベルにまで行ってほしいものだ。そうすれば、音楽の骨具はがもっとクリアにオーディエンスに伝わるだろう。これだけの技量を持ったバンドなら、そんなに難しい事ではないと思われる。1997年の仲西中学校以来の沖縄県からの九州代表の誕生となった。指揮者も、10年出場表彰を受けたが、それに花を添えることになった。

続いて、福岡市立姪浜中学校。こちらも重量感のあるサウンドであるが、ややブラス系のサウンドがレアなのが気にはなった。ややもすると、金管のサポートを木管がやっているような感じになり、実は、その逆の発想からサウンドを構築した方が、シンフォニックなサウンドは作りやすいという事をもう一度考えてもらいたい。しかし、ここの奏者の技量は高く、ピッチも安定していて、音楽に安心して入り込むことが出来た。ただ、音の鳴り終わりの処理がやや乱暴で、楽器の音が鳴ってから終わるまで、細かい神経を払えば、サウンドは格段に心地よいものへと変わるだろう。自由曲は、スタートする場所が想定外だったのでややびっくりしたが、オペレッタの軽やかなシーンを再現するには、ややサウンドが重かったかも知れない。また強奏部分になると、音楽的な整理が付いていないせいか、焦点がボヤけてしまったのが残念。金賞受賞

続いて、鹿児島代表、鹿児島市立谷山中学校。ここは、88年、96年と、全国大会にも出場した経験を持つ鹿児島の吹奏楽名門校のひとつ。近年、非常にレベルが高くなって来ている鹿児島県大会の修羅場をくぐり抜けてきた。課題曲の冒頭は、緊張感が見られ、特に木管サウンドがやや引きつり気味だったのが、残念だった。曲が進むにつれてサウンドは改善されて行ったが、音楽がどちらかというと後ろのめりで、特にこういう楽曲は、前へ前へと音楽を進めて行かないと、音楽が滞りがちになってしまう。さて、自由曲は、楽曲に引っ張られる感じで、前進感がよく表されていたが、管楽器と打楽器のバランスが悪く、打楽器に頼らずにスピード感をどう出すか、そうしたアプローチで楽曲に臨んでほしかったと思う。しかし、若い指揮者が率いての九州大会初出場。この経験をバネに、更に感度の高い音楽を築いて、また新たな歴史を作りに、この場所にやって来ることだろう。銀賞受賞だったが、全体的な出来としては、金賞をあげても良かったような演奏だったと思うが、更なる音楽的な追求を、というメッセージだったと思ってもらいたい。

続いて、こちらも鹿児島代表、鹿児島市立吉野中学校。課題曲の冒頭から、他のバンドとは目指す音楽が異なるのを感じさせるサウンドが会場に響きわたる。この課題曲1には、様々な異なった要素が詰め込まれているわけだが、その要素のひとつひとつを丹念に整理し、聞かせながら、旋律をオーディエンスに感じさせる、音楽がそのレベルにまで達しているのは、非常に聞いていて心地よい。しかし、随所でサウンドのバランスを崩す場面が見られ、そこを修正すれば、画竜点睛という事になるだろう。自由曲は、ハープの使い方も効果的な流麗なサウンドでスタートする。アルプスの澄み渡る空気感がうまく演出されていた。このバンドのサウンドの良さは、動きのある音もそうだが、それ以上にロングトーンを担当するそれぞれの楽器の安定感にある。動きのある音符を担当する楽器は、ミスも目立ちやすいがそれは合奏の中ではあまり大きなことではない。対して、動きのない音符、特にロングトーンを担当する楽器は、ミスを犯すことはほとんどないが、その分、鍛練度習熟度がプロの審査員には一目瞭然となってしまう。今回九州代表になっていた団体は、やはりその辺りの鍛練度達成度が非常に高いところだった。というわけで、2003年以来の出場となった全国大会では、動きのある音符を担当する楽器も、パーフェクトを目標にして、全国のオーディエンスに感動をもたらして欲しい。金賞九州代表。2001年、2003年に続いて、3度目の全国大会出場。

続いて、福岡県代表中間市立中間東中学校。午後の部の中学校は、ピッチや音の立ち上がりなどが安定しない団体が続出していた中で、このバンドは、ややサウンドがストレートすぎるきらいはあったが、非常に安定した演奏を展開していた。課題曲のフレーズ感も自然で、音楽の流れを損なうことがなかった。目立ったミスも無かったように思う。自由曲においても、安定感は持続し、楽曲の雰囲気をよく表現していたが、後半の強奏部分で、サウンドのバランスが、特に打楽器において崩れてしまったのが残念。また、木管楽器の高音部における処理も、さらに気を使う余地があるようだ。しかし、この午後の部にあって、この演奏で銀賞というのは、酷なような気がした。ぜひ、サウンドに磨きをかけて、来年も素晴らしい演奏を期待したい。

そして、後半、休憩を挟んで登場して来たのは、去年の全国大会金賞受賞校、鹿児島県代表、霧島市立国分中学校。昨年の九州代表校は全て全国大会で金賞を取ったが、その3校全てが今年は指揮者が替わりながらも、九州大会に駒を進めてきた。次郎丸中と東海中が、新任者の音楽に強引に変えようとしてサウンドも音楽も馴染みきらないまま結局いい結果を出せなかったのに対して、ここの新任の先生は、去年までの国分中学校の伝統を維持しながら、新たなエッセンスを吹き込んだことで、鬼に金棒的なサウンドと音楽でまたワンランク上に達する事に成功したようだ。課題曲3がスタートすると同時に、九州代表を確信したが、どんな弱奏でも、またトゥッティになってもひとつひとつのサウンドが全くブレないのが、このバンドの今の力だ。ともすれば無機質な印象を与えるこの課題曲が、アッと言う間に終わってしまたように感じさせる音楽力はさすがだ。自由曲も、効果的な弱奏からスタートするが、こちらの方は、鹿児島県大会の時と比べるとやや、全体的にアンサンブルの乱れが目立ったのが残念だった。後半も美しい旋律をもっと感銘度高く歌って欲しかったが、ややあっさり進んでしまったのが残念。願わくば、あまり考えすぎず練りすぎず、バンド本来の力をストレートに出せば、今年も全国大会でいい結果をえられるだろうと思われる。というわけで、今年は鹿児島県から2つの九州代表団体が生まれる事になった。これは、史上初の快挙となる。そして国分中学校は全国大会2年連続出場という事になった。

さて、今日は、中学校の部25団体を聞いてきたが、全体を通してこれまで優位を誇って来た福岡県の中学校がいま一つ伸び悩んでいるのが非常に気になった。その原因のひとつに、ブラス系のサウンドのビリビリ音がストレートに客席に伝わって出てくる事だろう。金管楽器木管楽器以上にベルの位置によって、サウンドも音量もガラリと変わってくる。また、ふだんの練習のときと、ホールで雛壇に上がった時では、必然的にベルの高さも変わって来るわけである。様々な状況を考えて、いかに木管楽器とのブレンドを図るか・・・・この点が、たとえば今年代表となった鹿児島代表の2校と、福岡県の学校との一番大きな差だろう。全体としてのボリューム感を出す事よりも、ブレンド感を出す事が先決ではないだろうか。

そして、全体的に感じた事のひとつが、ひとりひとりがサウンドに色のバリエーションを持つという事の大切さ。吹奏楽の音楽は、サウンドが画一的になってしまうと、聞く方は段々と疲れを感じてしまう。九州代表になった団体は、まずピアニッシモからフォルテシモまで自由自在にサウンドを操り、音符に書かれている以外の変化を音楽にもたらしていたと思う。
それからもうひとつ気になったのは、楽曲の余韻が残っている間に、自由曲に向けて配置移動を行ったりする点。やはり終わった楽曲に対する愛情をしっかりと表して欲しいものだ。
そして最後に、打楽器のセッティング。管楽器のサウンドとの兼ね合いでの配置を考えると共に、楽曲の特性を生かした配置というものにも、もっと神経を使ってもらいたい。管楽器と打楽器をどうブレンドさせ、音楽にしてオーディエンスに伝えるか。これは吹奏楽というジャンルにとって、最も大きな課題であり、またちょっとした工夫で劇的にサウンドに変化を持たせる事が出来るのである。

中学校の部金賞受賞団体
九州代表
沖縄市立美里中学校、鹿児島市立吉野中学校、霧島市立国分中学校
それ以外の金賞
福岡市立姪浜中学校、延岡市立東海中学校、沖縄市立山内中学校

銀賞受賞団体
長崎市立方淵中学校、都城市立高城中学校、八代市立鏡中学校、鹿児島市立谷山中学校、北九州市立沼中学校、
佐賀市立城西中学校、北九州市立門司中学校、熊本市立京陵中学校、福岡市立柏原中学校、波差見町立波差見中学校、
福岡市立次郎丸中学校、武雄町立武雄中学校、中間市立中間東中学校、須恵町立須恵中学校、大分市立城東中学校、
長崎県立長崎東中学校