九州吹奏楽コンクール高等学校の部

昨日の中学に続いて今日は高校の部。九州の高校の部は、昨年は出場3校が全て全国大会金賞というレベルの高さを誇る激戦区のひとつ。今年は精華女子校が3回連続出場によるお休みで、常連校以外の気合は相当入っていた事だろう。その中から印象に残った団体を。

まずは、プログラム1番、福岡第一高等学校。いわゆる朝一から地元の代表候補が登場するこという事で、会場は朝早くからほぼ満員。ヒートアップしていた。このバンドは福岡支部大会も聞いたが、非常に安定したいい演奏だったのを覚えている。が、今日の演奏は、課題曲の冒頭から音楽的な不安定さがつきまとい、九州大会常連校らしからぬ演奏であったのは事実。しかし、積み重ねてきた楽曲へのアナリーゼや音楽的なアプローチが崩れる事はなく、奏者が不調な時においても、日頃の音楽的追求がしっかりとなされていれば、全体としては影響が少ないという事も示してくれた。自由曲のオケコンも、木管の速いパッセージがいまひとつ不明瞭で心配されたが、最終的には底力でフィナーレまで持たせたという印象。個人的には支部大会で聞いたときの演奏の方がはるかに良かったと思われる。このバンドの持っている力を考えると、まだまだ一皮も二皮もむける可能性があるはず。普門館では、更に更に鮮やかな伝説とオケコンで、その存在感をアピールして欲しい。もちろん、これはレベルの高いこの学校にだからこそ言いたい苦言であって、比較級で考えると、九州のトップグループにあるのは間違いない。朝一ながらも、金賞九州代表をゲット。

続いて、福岡工業大学附属城東高等学校。このバンドは第一とは逆に、支部大会ではその仕上がりの遅さに少々拍子抜けしたが、今日の演奏は別バンドのようだった。課題曲3は、楽曲が持っている陰と陽の対比を実に見事に表現して、全てのフレーズが聞くものに伝わってくる音楽的な整理能力は他の追随を許さないものがある。課題曲の前半で既に会場の空気を城東色に変えてしまっていた。自由曲のエルフゲンの叫びは、この楽曲が描こうとしているシーンを描ききるのが非常に難しい曲で、支部大会の時は、正直「叫び」のニュアンスを感じ取る事は出来なかったが、今日の演奏は、そうしたストーリーを劇的に表現するに充分なものだった。また課題曲自由曲を通じて、ピアニッシモからフェルテシモまでレンジをいっぱいに使った安定感のある音楽的表現はお見事。このバンドの神髄を見せられた感じがした。さ、全国大会では、また更に一皮むけて来るのだろうか。期待したい。もちろん、文句なく金賞九州代表をゲット。

続いて、福岡県代表、北九州市立戸畑商業高校。非常に鮮やかなサウンドを持つバンドという印象。去年は県大会で聞いたが、代表になれなかったのが不思議なぐらい、輪郭のはっきりとした音楽を展開するバンドだ。課題曲2は、多くの大編成バンドが非常に重い音楽に仕上げてしまっていたのに対して、このバンドは、このサウンドが功を奏して、非常にライトな課題曲2に仕上げていた。音楽全体にも前進感があって、心地よい演奏だった。自由曲も、このライトなサウンドにぴったりのバーンズの3番。全体を通して、よくまとめられていたが、たとえば、リフレインされる旋律の処理方法や、バーンズ独特の躍動感溢れるリズム感などへの訴求がいまひとつなされていなかったのが残念。楽譜に書かれている音楽に息を吹き込み、人格を植えつけるまでの段階に至っていなかったのが惜しまれる。金賞受賞

続くは、この大会絶好調の鹿児島県代表のひとつ、鹿屋中央高等学校。鹿児島県大会の時は、個人的には不満を感じる演奏だったが、それから約3週間、非常に音楽的に進んだアプローチを施してきたのに驚いた。課題曲1は、曲の流れはよくつかんでいるが、時折サウンドが巨大な岩石の塊のようになって聞こえてきたのが残念だった。更にもう1段階、音楽的な整理がなされれば、より鮮度の高い伝説になったに違いない。自由曲は、アーノルドの世界観をよく研究して来ていたが、この曲を演奏するには、ややサウンドが厚すぎたかも知れない。パーカッションの効果音も、やや主張し過ぎかなというきらいはあったが、旋律をしっかりと歌い上げる音楽作りは、非常に好感が持てた。中盤以降、クライマックスへの音楽の持っていき方も、音楽を感じさせるもので、この辺りの成長ぶりはお見事でした。金賞受賞

続いて福岡県代表、大牟田高等学校。課題曲1の冒頭は、ややアンサンブルが不安定だったが、全体を通して、よく音楽の流れを研究した演奏という印象だった。が、やはり随所随所での若干のアンサンブルの乱れが目立ってしまったのは、残念。また同じフレーズを繰り返す時には、そのサウンドの表情に変化をつけたりなど、工夫が欲しかった。中間部も主旋律と対旋律が完全に離反していて、このあたりのブレンドの妙が、代表校との差にあるのではないかと思った。さて、自由曲は、ダンス・ムーブメント。今年は精華女子校がお休みにもかかわらず,バーンズやスパークなど、精華女子校の亡霊があちこちにいるような大会でもあった。話しを戻してこの選曲は、大牟田高校のサウンドによくマッチしたものだったと思う。そして内声部の細かいフレーズもしっかりと浮きでてくる演奏力で、鮮やかな場面を演出するのに成功していた。ただ、後半のパーカッションの必要以上の強打は、いただけない。しかし、去年からの鮮やかで劇的なサウンドと音楽の転身はお見事。地区が地区なら、代表になってもおかくない演奏だった。金賞受賞

続いては、鹿児島県代表、神村学園高等部。課題曲は、やや安定を欠いたオープニングでスタートするが、それはこのバンドのサウンドがシンフォニックであるがゆえんの事だろう。オープニングの処理も、県大会時は少々驚きの解釈だったが、見事に音楽的に建て直して来た。その後中盤以降はなんとか持ち直して、無難にクライマックスへと聞くものを導いた。この学校も、鹿屋中央と同じく、県大会に比べると、飛躍的に音楽の質が向上していた。自由曲、英雄の生涯は、吹奏楽でその色彩感を表現し尽くすのは難しい楽曲だか、細やかにそしてたおやかに、終末の弱奏に向けて音楽を収束して行く過程は、非常に見事な表現力だった。欲を言えば、更に音色の種類や幅が増えると、シュトラウスさんも、草葉の陰でほくそ笑んでくれる事だろう。九州代表開けの昨年は銀賞に泣いたが、今年は、見事に金賞受賞

続いて、鹿児島県立松陽高等学校。去年まで2年連続全国大会金賞を受賞している今や九州を代表するバンド。課題曲1のイントロ終盤、これでもかと叩きつける部分は、好みが分かれるところかも知れない。それにしても、個々の楽器のサウンドの美しさもさることながら、合奏部分でも、個性を失わずにサウンドブレンドされているところが、このバンドの強みだろう。ただ随所で、もう少しタンギングの妙を演出してもいいのでは、と思われる部分があったが、この辺りも、好みが分かれるところかも知れない。しかし、非常に旋律もよく謡われた感動的な課題曲だった。続いて自由曲はサロメ。冒頭部分、やや打楽器と管楽器のバランスが悪く、調性が感じられなかったのは残念。ところで、この曲を聞くとき、人々はオーボエの妖艶な謡いや、艶やかなフルートの音色に、サロメの妖艶な姿を見いだし引き込まれて行くわけだが、なぜかこのバンドの場合は、ついつい心が弦バスに向いてしまう。おそらく目隠しをされたら、誰もが迷わず弦バスの方へと導かれて行くに違いない。それは、管楽器セクションがいまひとつというわけではなく、それだけ弦バスの演出力が素晴らしいのである。とはいえ、弦バスに負けない妖艶さを、管楽器セクションは更に磨きをかける必要もあるようだ。普門館では、史上最高の妖艶なサロメを期待していたい。もちろん文句なく金賞九州代表をゲット。そういえば、今日も演奏終了後扉の外で全員の楽譜を抱えていた2人の松陽生がいたので2〜3話しをしたが、ここの生徒はいつも初対面でもニコニコ気さくに話してくれて、別れ際にもしっかり目を見て挨拶するなど、いい演奏を残すバンドは人間としての教育も出来ているのを痛感する。客席では、「謎のおばあちゃん咳き込み事件」に泣かされていたようだが。というわけで、これで3年連続全国大会出場達成、おめでとう。

というわけで、九州大会前半戦はこれで終了。この日は、西南学院高校舞鶴高校、泰星高校の部員が裏方で頑張ってくれたらしい。感謝感謝。そして、各県の吹奏楽連盟から集まったスタッフの方々も含めて、台風一過の暑い中、ご苦労さまでした。

九州代表

福岡県代表 都築学園福岡第一高等学校吹奏楽 (指揮 : 山崎 毅)
課題曲 1: 架空の伝説のための前奏曲(山内雅弘)
自由曲 : 管弦楽のための協奏曲より 終曲(B.バルトーク/仲田守)
福岡県代表 福岡工業大学附属城東高等学校吹奏楽 (指揮 : 屋比久勲)
課題曲 3: パルセイション(木下牧子
自由曲 : エルフゲンの叫び(G.ローレンス)
鹿児島県代表 鹿児島県立松陽高等学校吹奏楽 (指揮 : 立石純也)
課題曲 1: 架空の伝説のための前奏曲(山内雅弘)
自由曲:楽劇「サロメ」より七つのヴェールの踊り(R・シュトラウス/小澤俊朗)