第47回全日本吹奏楽コンクール中国大会中学校の部

今日は、6時半に起きて、新幹線で広島へ。吹奏楽コンクール中国大会中学の部を聞きに行ってきた。中国大会の中学校の部は、ここ数年毎年聞いているが、去年感じたレベルの低下をくい止める事が出来ているのかどうか・・・・。
では、印象に残った団体を。

まずは、島根県代表、大田市立第一中学校。この学校の注目点は、90年代に出雲第二中学校を3年連続全国金賞に導いた竹下克俊先生が赴任して1年目(多分)だという事。この学校ではどんな歴史を作って行くのか興味津々だった。さて課題曲がスタートすると、まだ年月が浅いからか、サウンドが構築しきれていないのが一目瞭然だった。そのため、ハーモニーがところどころで破綻して、音楽の流れを止めていたのが残念だった。自由曲も、やや解釈に疑問点のある部分がいくつかあったが、それでもやはりキャリアのある指揮者だけあって、次なる可能性を充分に感じさせてくれる演奏だったと言っていいだろう。これから格段に伸びて行くバンドのひとつかもしれない。

続いて、周南市立岐陽中学校。課題曲のスタートと同時に、非常に豊かなサウンドが心地よい。メンバー個々の技量も高いものを感じるが、音楽的なアナリーーゼがやや足らず、この課題曲の内面まで追求する事が出来ていなかったのが残念。やや平面的な課題曲となった。自由曲は、ダフニスとクロエ。課題曲の時間が長い今年、どの部分をやるのかなと、期待と不安で聞いていたが、かなりスパスパとカットし放題のダフニスになってしまった。自由曲はやはり、その年の課題曲のサイズに見合った作品を選ぶべきではないか・・・・そう感じたのは私だけだろうか。

続いて、去年の代表校、岡山市立高松中学校。課題曲のスタートと同時に、やはりサウンドが安定しているのが心地よい。がやはり、課題曲の表現が平面的になっていたのが残念。今年の課題曲は耳にすると平易に聞こえるが、実は非常に表現力を要求されるものが多いような気がする。そして自由曲、交響曲のフィナーレをこの限られた時間に・・・・という不安はここでもやはり的中。ここまでズタズタに切り刻んでしまうと、音楽とは何なのか・・・・・少々考えさせられてしまう。技量のあるバンドだけに残念だった。

続いて、出雲市立大社中学校。この学校は先日のいずも吹奏楽のつどいでも聞いたが、課題曲のスタートと同時にあのときよりも飛躍的にサウンドも音楽も進歩しているのに驚いた。が、随所でハーモニーの濁りや、ピッチの乱れがあったのが残念。自由曲も非常によくさらっていたが、特に内声部のサウンドの充実度とハーモニーの安定度がやや低く、楽曲の持つ勢いに助けられた感があったのは残念。ここの技量は高いバンドだけに、音楽の基礎からの組み立てをしっかりと行えば、飛躍的に進歩するバンドだと思うのだが・・・・・。

続いて、去年の全国大会金賞受賞校、津山市立北陵中学校。指揮者はかつて津山西中学校を何度も全国大会金賞に導いた稲生健先生。さて、課題曲は、ややというかかなり安全運転のテンポ設定でのスタートとなった。このテンポの中では、やはりペットのソロは完璧でなければならないだろう。全体を通してミスらしいミスは無かったが、唯一このテンポ設定がミスだったのではないかと思われる課題曲だった。そして自由曲になると空気は一変。毎年、レハール/鈴木英史作品の初演を担っている感じのこの学校だが、今年の演目は「ロシアの皇太子」。レハールオペレッタの持つ軽薄さと、ポップさを非常に巧みに表現した力は、さすが百戦錬磨の指揮者、稲生健。課題曲に対する不満をも全て消し去る名演だった。

続いて、3年連続全国大会出場休み開けの、出雲市立第一中学校。課題曲のスタートと同時に、これまでのバンドとは全く異質のサウンドであるのが手にとるようにわかる。始まりはもう少しピアニッシモが欲しかったが、これだけの重量バンドだと、この会場ではそれは物理的に無理なのかも知れない。中盤、ピッコロとグロッケンのアンサンブルが乱れたが、あれは意図的なものなのか・・・・。ところでこの課題曲3は、内声部の充実と、バランスの妙が非常に高いレベルで求められる曲である。この日課題曲3を選んだ学校でそこまでの処理がしっかり出来ていたのは、この学校だけだった。こうした徹底したアナリーゼが、連続出場連続金賞をもたらすのだろう。終盤の解釈は個性的で面白かったが、この日はややホルンが不調だったようだ。さて、自由曲は、大方の予想を裏切って、ベルキス。今の出雲一中ならば、ベルキスは余裕で演奏できるだろうが、敢えてそういう楽曲にチャレンジした意図は何なのだろう・・・・。それにしても最初から最後まで、重量級サウンドは一度たりとも揺らぐ事はなく、ややミスは目立ったものの、築き上げてきた基礎力が崩れる事は全く無かった。お見事。これで全国大会は36回目の出場。天晴れ。

続いて、昨年の中国代表校、東広島市立黒瀬中学校。課題曲のスタートと同時に、分離のいいサウンドだなあという印象を持つ。ただ、やや乾燥気味なのも確かで、特に木管の細かいフレーズが時折全体のサウンドの中に埋もれてしまうのが残念だった。また分離がいいという事は、ややブレンド感に欠けるのも確かで、そのマイナス部分を補う上でも、さらなる課題曲のアナリーゼが望まれるところだ。自由曲は、チェザリーニの青い水平線。細かい動きのアンサンブルは非常に鍛練されているが、ややパーカッションがオーバーフロー気味なのが気にはなった。しかし、この楽曲は、的確に演奏する事で演奏効果のあがる楽曲であり、演奏者たちの真摯な取り組みが素晴らしい結果を生み出したと言っていいだろう。演奏終了後先生は感極まって涙ぐんでいたような気がする。これで2年連続2度目の全国大会出場という事になった。

続いて、下関市立東部中学校。中国地区は歴史を作ってきた指揮者が多いが、ここの指揮者は、かつて桑山中学校を3年連続全国大会金賞に導いた先生。エッジの非常に鋭いサウンドが続く中、非常にマイルドで柔らかなサウンドになぜかホッとする。テンポ設定も程よく、さすがに百戦錬磨の指揮者という感じだ。が、ややところどころにハーモニーが濁りを見せてしまう部分があったのが残念。全体として音楽の輪郭を丁寧に描いていたが、いまひとつ音楽的な主張が感じられなかったのが残念。中盤以降は、ややピッチも不安定な部分を魅せてしまう事になってしまった。さて自由曲は、オーボエのソロなど、ここの技量は光っていたが、まだこの曲に挑戦するには、もっとサウンドの基礎やバランスなど、課題が多かったのではないかと思われる。しかし、総合的な音楽はしっかりと評価されたようだ。

そして、中国大会中学の部、トリを努めたのは、出雲市立河南中学校。指揮者はかつて平田中学校を全国大会3年連続金賞に導いた古川慎治先生。さて、課題曲の冒頭のアンサンブルの乱れは何だったのだろう。非常に重量感のあるサウンドで堂々と音楽は進行して行くが、ブラス系のピッチが悪く、ロングトーンが安定しなかったのは非常に残念。しかし、非常に音楽的には安定していて、古川氏の本領がそろそろ発揮されて来たかなという印象を持った。そして自由曲は、かつて平田中が全国大会で歴史的な名演を残した楽曲。この曲を選んだという事は、指揮者も今年のバンドに相当期待を持っていたのだろうが、やはりブラス系のピッチの悪さが随所で足を引っ張ってしまったのが残念だった。何かアクシデントがあったのだろうか。作られた音楽や個々の技量には金賞をあげたかったが、サウンドの決壊は如何ともすることが出来ずに、残念ながら銀賞受賞という事になった。

というわけで、中国代表の栄誉を勝ち取ったのは、以下の3団体。
津山市立北陵中学校 1/喜歌劇「ロシアの皇太子」セレクション(F.レハール/鈴木英史)
出雲市立第一中学校 3/バレエ音楽シバの女王ベルキス」より(O.レスピーギ
東広島市立黒瀬中学校 1/青い水平線(F.チェザリーニ)

そしてこの3団体には、実は大きな重責がある。それは、これまで中学の部の中国地区代表は、全国大会23年連続金賞受賞という記録を持っている。去年は津山北陵中学校が死守したが、今年もその記録を続けて行くという使命があるのだ。さ、今年はこれを24年に伸ばす事が出来るのか・・・・。楽しみにしていたい。