九州吹奏楽コンクール一般の部

今日は、飯塚というところに九州吹奏楽コンクール最終日、一般の部を聞きに行ってきました。飯塚はこれで2回目。そうです、吹奏楽コンクールでもなければ、まず行かない町です。とはいえ、福岡の天神からバスで約40分。駅のすぐ近くに会場があるので、行きやすい会場だと言っていいでしょう。
それでは、印象に残った団体について少々。

まずは、昨年の九州代表、佐賀市吹奏楽。昨年はもう少しで全国大会初金賞というところまで行った実力を持つバンド。課題曲は大人の部ならではの5番。このバンドのサウンドの特徴は重量感がありながらも非常にクリアな点だろう。このバンドは好んで5番を選択して、その卓越した技術力も魅せてくれるが、今年の課題曲5は、記譜されたことをよく再現しているものの、作者が意図したシーンを演出できたかどうかは疑問だった。さて自由曲は、お馴染の邦人作曲家による作品。今回の作品は、音の固まりをオーディエンスにぶつけてくる感じの作品で、せっかくのこのバンドのサウンドを生かしきれないものであったのが残念。課題曲同様に高い技術力は示していたが、音楽としてのメッセージを、私は感じることが出来なかった。コンクールという場は、鍛練して来た技術を評価してもらうと同時に、磨いてきた音楽性をどう伝えるか、そのためにどういう曲を今のサウンドにおいて選べばいいのか・・・・そういうステージであると思うのだが。しかし、勿論代表になってもおかしくないない快演だったのは間違いない。

続いて、鹿児島県代表、松陽高校OB吹奏楽団「緑」。ほとんどの一般バンドが、金管楽器サウンドで音にエッジをもたせているのに対して、このバンドは木管楽器の動きが非常に鮮明で、サウンドのエッジを木管楽器で聞かせるという貴重な存在。その分、全体的にサウンドに靄がかっている感じがしないでもないが、そう感じてしまうのは、コンクールにおいてほとんどのバンドが金管楽器をバリバリ鳴らしているが為なのであって、実は非常に耳に人間に優しいサウンドなのである。このサウンドでの課題曲1は、ややメッセージ不足の感が無いでもないが、この曲の違う一面をみること出来て非常に興味深かった。そして、自由曲は、木管中心バンドの骨頂を見る様なお手本の選曲で、冒頭から、このバンドの力を遺憾なく発揮していた。が、中間部はその分もっともっと躍動感が欲しい気がしたのだが、その後クライマックスへの持っていき方は非常に心地よかった。ただ、管楽器に比べて少々打楽器のボリューム感がありすぎるのではないか、とも思ったのも事実ではあった。そしてなんと、8年ぶりの九州代表権をゲット。全国大会では、このシンフォニックなサウンドの素晴らしさを披露してもらいたい。

続いて、福岡県代表、飯塚吹奏楽。冒頭から豊かなサウンドを持ったバンドという印象で聞いていくが、やがて、全体的に金管サウンドがバリバリ鳴り渡り、音楽の進行を妨げてしまっているのに気づく。また楽曲のアナリーゼが少々不足気味で、楽曲のすみずみに隠れた様々な要素があまり再現されていなかったようだ。陰と陽の存在が化学反応を起こして波動を起こし、やがてショートし波動が消えて無くなるまで・・・・そういう演出をイメージして音楽を描いて欲しかった。自由曲も、演奏技術は高いものの、やはり金管楽器サウンドがややがんばり過ぎで、後半では悲鳴をあげていたようだ。楽曲のイメージを演出する為のオーバーフロウはいいこともあるが、そうでない場合は、聞く側は非常に辛いものであるということを念頭において、いかに聞かせるかを考えれば、飛躍的にその音楽が進歩するのではないかと思う。

続いて、鹿児島県代表、J.S.B.吹奏楽。去年の九州代表。まずは課題曲のスタートと共に、その解釈が県大会とは全く違うものになっていたのに驚いた。テンポ設定も的確で、隅々までアナリーゼの行き届いた課題曲に変身していたのはお見事。冒頭こそ、やや心の乱れが見られたが、その後は終始安定していて、楽曲の中に存在している全ての要素が、入れ代わり立ち代わり現れて消える感じで、この楽曲の持つメッセージを最も良く再現していたと思う。若干バスドラムサウンドがバンドのサウンドと隔離しているように感じられたが、それは会場の響きのせいもあるのかも知れない。それともう一点、重量感があるサウンドの中で、さらに旋律を際立たせることが出来れば鬼に金棒だろう。そして自由曲も鹿児島県大会の時は全体に音楽が靄っていて、何を言いたいのかわからなかったが、ここでも九州大会ではキッチリと音楽的な整理をつけて来た。もともと、サウンドは確立されているので、音楽的な解釈が進めば進むほどにこのバンドの音楽は飛躍する。また吹奏楽ではおざなり的なコーラスが多い中、この自由曲の中でのコーラスは秀逸で、特に男声の響きが素晴らしかった。ただ、後半、ややまったりする場面も無きにしも非ずで、クライマックスにもって行くまでの音楽的な起伏の再考を望みたいもの。さ、今年は独走状態での九州代表。全国大会では悲願の九州代表初金賞受賞達成となるか、楽しみにしていたい。

続いて、同じく鹿児島県代表、宮之城吹奏楽。3回連続出場後、やや低迷している感があったが、今年はサウンドも音楽もみごとに復活して、鹿児島県大会はトップで通過した。そして九州大会は課題曲の冒頭から、その好調さを維持していたが、プレッシャーからなのか課題曲はやや固さがみられたのが残念。サウンドのバランスや音楽的なアナリーゼもこのレベルまで来ているのだから、もっと伸び伸びと音楽を遊ぶぐらいの余裕が欲しかった。しかし、トランペットを中心にここのバンドの技術は高く、トップレベルの課題曲だったのは確かである。そして自由曲では、その固さも取れて、これまでやって来たことを全て吐き出すかのような快演だった。ただ、3つの場面が鮮やかに変化していたかと言うと、もう一息で、それはサウンドのバリエーションがやや少ないからかも知れない。それがこのバンドの今後にむけての課題だろう。しかし、それでも九州代表になっても全くおかしくない演奏であったのは事実で個人的には代表にしてあげたい感動的な演奏だったと思うが、飯塚でかけられた魔法は、来年の大会で解いてもらうことにしよう。

そして最後に大牟田奏友会。課題曲前半は、緊張感があってよかったが、曲がすすむにつれて、このバンドってこんなに金管がバリバリ鳴るバンドだったっけ?という疑問が沸いてきた。そういう意味で、今年はサウンド作りに失敗したのかも知れない。個々の技量はあるのだが、いかんせん、このサウンドのバランスの悪さでは、音楽を的確に伝えることは出来ないだろう。自由曲も、ところどころで美しい音色が聞かれるが、ブラスサウンドが加わると、そのバランスを崩してしまうのが残念。特にこの会場は、去年の宮崎芸術劇場ほどではないが、木管がやや不鮮明になり、金管がバリバリ飛んでくる特質を持ったホールで、その辺の響きは、福岡県の団体ならば知っていると思っていたが、気負い過ぎたのか。また、選曲の部分でも、このバンドは海外の吹奏楽オリジナルの華やかな楽曲の方が合っていると思うのだが・・・・。また来年に期待しよう。

というわけで、ここで17時の飛行機に乗らなければならず、飯塚を後にした。福岡空港は、宮崎便が欠航になっていてとんでもないことになっていた。

そんなことはどうでもいいとして、今年は全国各地の会場で、これまでの「吹奏楽」という概念を覆すような、シンフォニックなサウンド作りや音楽作りをしたバンドが高く評価される傾向にある。これはこれで喜ばしいことだろうし、またひとつの目標も出来るわけだが、いつも思うのは、そうした審査の過程の中で起こる個性の排除である。ひとつの方向性だけを押しつけるのではなく、様々な個性あふれる音楽を楽しみ、認め合い、その最高峰にあるバンドを代表として選出するような環境作りを行ってもらいたい・・・・などと考えながら搭乗したのだった。