東京都吹奏楽コンクール・高等学校の部

さて、今日はいよいよ東京都大会の日。午後からは客席もオーバーフローになるのが予想される高等学校の部がある。これまでは6つの高校が本選で競ったが、今年からは12校が駒を進めての大会となった。
その中から印象に残った団体をいくつか。

まずは、都大会常連校のひとつ、東海大学菅生高等学校。非常に堅実な音楽を展開するという印象をもっているバンドのひとつ。今日もご多分に洩れず、豊かなサウンドによる課題曲1は、さすがに常連校のもの。ただ、その豊かで重量感のあるサウンドのために、やや音楽が重々しくなる部分もあり、そういう部分での変化をどう付けるかが、このようなバンドの課題のひとつだろう。またエンディングも、もっと劇的な幕切れを期待したのだが・・・・。さて自由曲のステンドグラスは、この重厚なサウンドがふんだんに生かされるものとなった。冒頭部分はキチッとそろえてほしかったがややズレが見えたのは残念。中盤以降は、このバンドの個性が全開して、楽曲の持つイメージを的確に再現していたのが、素晴らしかった。ただ、全体を通して一本貫き通す芯みたいなものがあったら、もっと音楽的にアピール出来たかもしれない。金賞受賞。

続いて、こちらも都大会の常連校、東京都立杉並高等学校。課題曲1は冒頭からやや不安定な演奏で、随所でアンサンブルの乱れが見られたのが残念。やや、テンポ設定が早すぎたか?しかし、木管を中心とした豊かでシンフォニックなサウンドは非常に耳当たりが良い。さ、自由曲は今年全国で乱発のスペイン狂詩曲。細かいフレーズの再現力はこの日のスペインの中でも抜群で、また対比も鮮やかに演出していたのは素晴らしかった。ただ、やや打楽器と管楽器のバランスを崩してしまっていたのが残念だった。しかし、ソロ楽器の歌い方も美しく、クライマックスに向けての音楽の作り方も高いセンスを感じることが出来た。金賞受賞。

去年の代表校、東京都立片倉高等学校。この学校の特徴はなんと言っても、指揮者の存在感。彼のパフォーマンスは見る者を引きつける、が冷静に音楽を聞くと、その指揮ぶりと音楽がいま一つ重ならない時もあったりする。が、今年の課題曲3は、予選の時ほど偏った解釈に陥ることも無く、純粋に演奏で勝負に来たという感じは好感が持てた。さ、自由曲「サロメ」は、奏者が移動中にスタートするという慌ただしさ。導入部分は雑然とした印象は拭えなかった。奏者達も慣れているとはいえ、まだ気持ちの切り換えが出来ていなかったのではないだろうか。自由曲ではさらに、指揮者と音楽の隔離が見られたが、音楽の勢いで今年も代表を掴んだ感じか。個人的には強要する音楽ではなく、共有する音楽の方が好きなのであるが、まあこれも個性なのだろう。これで2年連続東京代表となった。

続いて、こちらも去年の代表校、東海大学付属高輪台高等学校。課題曲1はやや固さの見られるスタートで、ペットも不完全燃焼気味だったが、全体を貫くサウンドと解釈は確固たるものを持っているという自信に満ちあふれた演奏だった。ただ、中間部以降、ややハーモニーに濁りが見えたのが残念だったが、この辺は容易に修正可能な範囲だろうと思われる。自由曲ガイーヌはもう独壇場で、細かいアンサンブルがどうのこうのと言い始めたらキリがないが、圧倒的な音楽と奏者の技量が揺らぐことはないと思わせる、高輪台高校ならではの世界を作り出していた。勿論文句無しの東京代表となったが、全国大会までに課題曲の精度はしっかりと調整して来てほしいと思う。

続いて、自分にとっては少々不思議な存在感を持つ、八王子高等学校。この学校の特徴は個性がないという個性、という感じだろうか。たとえば、課題曲1は、冒頭から、無難にスタートしてソロも無難にこなして行くが、後に残るものがない、という欲求不満が残ってしまうのである。しかし、奏者の技量も高く、非常に安定した音楽を展開していたのは間違いない。そして自由曲のローマの祭。冒頭のバンダは、3人の奏者がそれぞれにバラバラで、終始安定感に欠いていたのが残念。それ以外にも、全体を通して発音ミスが目立ち、例年のこの学校らしくない音楽が展開される形となってしまった。しかし、ユニゾンなどはさすがに素晴らしく、来年に向けての建て直しに期待したい。銀賞受賞。

さて、この日の大トリは、駒澤大学高等学校。全国大会でも何度も金賞を受賞している名門校だ。課題曲1の冒頭はもう少し登場感が欲しいところだが、これは、やや木管楽器の音色が平べったい感じがするからなのか・・・・。しかし、音楽の進め方は素晴らしく、終始停滞することなく音楽が流れて行く作り上げ方はお見事。中間部も、クラがよく歌い、オブリガードが美しく絡んで来た。終盤に向けては、中低域が安定すれば、さらに説得力が出たことだろう。ただ細かい傷がいくつか見られたのは残念。さて、問題の自由曲。難曲のオケコンをよくこなして来たが、この日の演奏は、細かいパッセージのアンサンブルの乱れが、少々気になった。特に金管にもっとエッジを持たせた方が、音楽の芯がハッキリとしたのではないかと思われる。一カ所致命的な傷もあるにはあって結果的には銀賞だったが、演奏力やサウンド、音楽の可能性は東京のトップクラスにあるのは確か。今日のことは全て忘れて、新たな1ページへと進んでもらいたい。

さ、というわけで、12校の参加ながらも、やはり例年の6強による熾烈な都大会ということにはなった。が、こうして高いレベルの争いになって来ると、どの学校もやはりコンクールで勝てる曲を選んできてしまうようだ。そしてコンクールで勝てる曲で出揃って来ると、今度はひとつのミスが命取りになりかねない、つまり演奏力や音楽性による差がほとんどなく、そういう部分で差をつけざるを得なくなってしまう、ということだ。つまり、演奏する側は、極度の緊張感に包まれてしまうということでもある。とはいえ、具体的な解決策があるわけでもなく、何かモヤモヤした気分のまま、府中を後にしたのだった。