東京都吹奏楽コンクール・大学一般中学の部

前回の大会からかなりのインターバルを置いての東京都大会。ちょっとした素朴な疑問なのだが、なぜにこの時期に東京都大会を行うのだろうか。とくに中学校は秋になってイベントも目白押しで、コンクールの練習に集中できない部分も多かったのではないだろうか。

さ、とにもかくにも、今日で全ての地区大会が終了して代表が決まる。

まずは朝一番、大学の部。トップバッターは中央大学。予選では素晴らしい音楽を聞かせてくれたが、今日の演奏は朝一番ということもあって、なかなか会場の空気にサウンドが溶け込めなかったようだ。また個人的な印象では、予選の時の方が良かったような気がする。課題曲も自由曲も、色彩感を欠いた、平板な音楽になってしまっていたのが残念。

東京代表になったのは、常勝駒澤大学。こちらは逆に予選の時は、精彩を欠いていたが、欠点をひとつひとつ克服して粒の揃った、かつダイナミックな音楽に仕上げていたのは頼もしい限り。課題曲の冒頭はやや揃わずヒヤリとさせられたが、その後の安定感はさすが。しかし、時折細かいフレーズが分厚いサウンドの中に埋もれてしまう場面もあり、この辺りの修正は全国大会までには、整えてくるのだろう。自由曲の幻想交響曲は、管楽器だけでおどろおどろしい雰囲気を演出するのはかなり難しいと思われるが、今日の演奏は及第点のレベルにまで持ってきていた。願わくば全国大会では更に、色彩豊かな音楽に仕上げてきてくれるといいのだが・・・・。期待していよう。

続いて代表は逸したものの金賞を受賞した創価大学。予選の時は、打楽器協奏曲のような課題曲だったが、今日は幾分抑えた形で、音楽が躍動していた。が、個人的にはもっともっと詰める余地かあると思うのだが・・・・。特に特にバスドラムは今回もパワー全開で閉口してしまった。しかし、それ以外は、必要以上の強奏をがなりたてることもなく、久々に輝ける創価サウンドをみみにした感じだった。自由曲もよく頑張って音楽にしっかりと食らいついていた。駒澤という大きな壁の前に代表にはあと一歩及ばなかったが、音楽に対する積極的な姿勢は好感が持てた。代表枠がひとつなのが残念だった。

さて、こうして大学の部を聞いていると、代表となった駒澤大学がやや抜きん出ている他は、今回本選に出場した5大学の差は、殆どないのではないかと思われた。コンクール映えする選曲とその高度な再現力を誇る創価大学、エッジのあるサウンドで堅実に音楽を奏でる立正大学、個々の楽器の音色の美しさが際立つ東海大学、個性的な音楽的解釈を団員がひとつになってオーディエンスに主張する中央大学、そしてまろやかなサウンドで耳当たりのいい音楽を独自のペースで楽しませる玉川大学。それぞれが高度な個性を持っているために、おそらくは審査員や演奏順が変わるだけで、賞も変わってくるのではと思うほど、音楽力は拮抗している。そんな中で、高度な再現力とサウンドのダイナミズム、心憎い選曲と、課題曲のアナリーゼの深さという、複数の特徴を持つ駒澤大学は、やはり一歩リードしているわけである。朝早い時間ではあったが、これらの団体の演奏を立て続けに聞くことが出来たのは、ファンとしては非常に幸せなひとときだった。今日出演した全ての大学にブラボーを贈りたい。

さ、続くは一般の部。この部門の東京都大会は予選の点数から見ても、東京正人吹奏楽団と創価グロリア吹奏楽団の一騎討ちとなった。

まずトップバッターとして登場したのが東京正人吹奏楽。課題曲は冒頭部分は緊張感があって良かったものの、その後はややアンサンブルの乱れがあったり、傷があったりと、やや釈然としないものになってしまった。秀逸だったのは自由曲。おそらくは、このバンドに最もマッチした選曲で、伊福部作品や幻想を演奏している時よりも数倍躍動感が音楽とサウンドに感じ取れた。ただ、ややサウンドがモノトーン化しているきらいがあって、音楽に立体感が感じられなかったのが残念。全国大会までにはその辺のところを修正して来て貰いたいたいところだが、期間的にちょっと難しい注文かも知れない。しかし、圧倒的な安定感で、2年連続の東京代表となったのは立派。また、このバンドは関東の一般バンドの中でも定期演奏会の完成度が素晴らしいので、多くの人々に是非足を運んでいただきたいものだ。

さ、一般の部のトリを努めたのは、創価グロリア吹奏楽。今回から指揮者が交代したが、予選を聞いた限りでは、サウンドにはさほど問題はみられず、どちらかというと個々の技量が例年よりも落ちているかな、という印象が大きかったのは事実。さ、課題曲は、やはりコンクールを知り尽くしている感じで、要所要所をしっかりと決めていたのはさすが。細かいフレーズもよく再現され、無難に吹き遂げた・・・・という感じだった。さて、自由曲。かつては、ローマの祭は得点が伸びやすい曲・・・・と言われていたが、ここ数年はやや使い古された的なイメージがあるのは事実(とはいえ、今年の高校の部全国大会はローマの祭大会の様相を呈してはいるが)。話を戻して、今日の演奏は予選の時のような大きな傷はなかったものの、こちらも無難な演奏という感じで、自由曲に対する積極性とチャレンジ精神が豊富だった東京正人に、音楽としての気迫が及ばなかったのではないか・・・・とも思った。しかし、色彩感豊かなダイナミックなローマの祭は、多くのオーディエンスを魅了したはずだ。

しかし、それにしても大学に続いて一般の部も東京代表1団体という厳しさ。そんな中でトップクラスの団体が1つの座を争うというのは、最早最終的には審査員の好みがより強かった方、ということになるわけで、代表になれなかった団体には非常に同情してしまう。しかし、東京大会という場で、この4つのハイレベルな演奏を聞けたのは非常に幸せだった。そして代表団体の全国大会での活躍に大いに期待したい。

さて、午後の中学校の部は、仕事場との電話のやりとりをしながらの鑑賞となったので、あまり多くの団体を聞けなかったのだが、その中から、印象に残った団体を。

まずは、小平第三中学校。ここ数年の東京代表の常連校だが、課題曲がスタートすると同時に、例年になくサウンドも技量も音楽そのものも、全く違う団体なのでは・・・・という印象を受けてしまった。その印象は自由曲が終わるまで変わることなく、卓越した指揮者のもと、何が彼らをそうさせてしまったのか・・・・理解に苦しむほどの今年の不調ぶりだった。来年の奮起に期待したい。

続いて、かつて全国大会に出場経験のある指揮者が赴任して注目を集めた、羽村第一中学校。課題曲の冒頭から、その指揮っぷりが注目を集めるが、サウンドはまだ安定という域には達していないものの、大きな可能性を感じさせるには充分のものだった。課題曲はやや傷やアンサンブルの乱れも多く、全国大会に向けての建て直しを願いたいが、自由曲は一度全国大会を経験している曲だけあって、その仕上がりは非常に安定度の高いものだった。

続く小平市立第六中学校。ここ数年では初めて聞く中学校だが、課題曲の冒頭から、非常にダイナミックなサウンドと、メンバー個々の技量の高さに驚いた。アンサンブルも見事で、自由曲も、これはおそらく、モスクワでの劇場占拠事件に基づいた楽曲だと思われるが、その襲撃シーンや人々の祈りの気持ちをよく再現していた。が、終始メゾフォルテからフォルテシモで鳴り渡っている感じで、ピアノヤピアニッシモの演出が出来ていたなら、代表に絡んでいたのは間違いないだろう。

続く足立第十一中学校は、個人的にもここ数年最も注目していた団体だけに、この時に仕事の電話が佳境となり、会場の中に戻れず聞けなかったのが残念。その分、全国大会で聞けるのを楽しみにしていたい。

そして後半の玉川学園中学部。ここ数年の代表常連校のひとつだが、去年あたりから、個々の楽器の到達度がバラバラになっているのが気になっていた。そして今年はそれが顕著に現れ、自由曲もスペイン狂詩曲という難曲の中で、更にそのバラバラさ加減は露呈されてしまっていた。そこまで細かくやらなくても・・・・という油断もあったのではないかと思うのだが、どうだろう。やはり、奏者それぞれの技量レベルの統一は、特に中学校や高校のバンドでは必要不可欠なものだと思われる。経験豊富を指揮者のもと、来年に期待したい。

というわけでここで仕事場に戻らなくてはならず、発表を聞けぬままに、会場を後にしたのだった。