第52回鹿児島県吹奏楽コンクール高校の部

今日は、地元鹿児島県の吹奏楽コンクールを聞きに鹿児島に戻って来た。
その中から印象に残った金賞団体の感想を。まずは代表校から。

神村学園高等部・課題曲4・自由曲「ハリソンの夢」(P.グラハム)指揮・久木田恵理子
この学校はマーチを得意としていると思っていたが、課題曲の冒頭からやはりそれまでの団体とは異質なサウンドでスタートする。この課題曲4番は、普通に音を出すと、心地よい音の塊になって飛んでくるのだが、的確なアナリーゼを重ねると、それぞれの音楽の要素が分離して客席に飛んでくるというちょっと不思議なオーケストレーションの曲である。つまり、あまり考えずに吹いたほうがいいサウンドに聞こえるのである。神村の4番はまさによく練られた課題曲4であった。その分、聴衆にはやや音圧に欠ける印象を与えるが、それは、より音楽的にこのマーチを捉えているという証拠なのである。主題の提示も丁寧で、勇壮なシーンもマーチの神村ならではの演出で、安心して音楽に身を任せることが出来た。
自由曲は、非常な難曲だが、木管に定評のあるこのバンドならではの表現力で、様々なシーンを時に音色を変えながら演じていくさまは、さすが代表常連のものを感じた。ただ、中間部の美しい旋律の謡い方や、パーカッションのバランスなどには改善の余地がまだまだあり、緩急のきめ細かな表情ををテンポの変化だけでなく、音楽的な表情で陰影を付けらるようになれば、一皮も二皮もむけたハリソンになるのではないかと思われる。

出水中央高校・課題曲3・自由曲「三つのジャポニズム」(真島俊夫指揮・福島玲士
昨年は惜しいところまで行ったという記憶のあるバンド。去年はまだサウンドに穴が多かったが、その穴を今年はかなりのレベルまで埋めてきた。課題曲3の選択は、個々の技術の自信のあらわれだろう。冒頭から、非常に豊かなサウンドと音楽が会場いっぱいに響き渡る。トリオの部分では、その個々の技量が本領を発揮して、絶妙なアンサンブルを見せてくれた。ただ、強奏部分になると、トロンボーンを中心に中低域を担当する金管楽器がバランスを崩し、それに伴って音楽が停滞してしまうのが、残念だった。九州大会に向けてより精度の高いバランス作りを施してほしい。
自由曲は、今年の高校の部で3団体が取り上げた人気曲。中でもこのバンドの演奏は、技術的な処理が最も優れていたと言っていいだろう。ただ、バンドの音色にややバリエーションが欠けているために、場面転換を楽曲のオーケストレーションに頼ってしまうきらいがあったのも事実。繊細ながらも勇壮な部分を併せ持つ和の世界を、音色の変化でももっともっと表現してもらいたいものだ。この指揮者の音楽は昔から好きだったので、今回の結果は非常に嬉しかった。

鹿児島情報高校・課題曲4・自由曲「シンフォニックバンドのためのパッサカリア」(兼田敏)指揮・屋比久勲
今年の鹿児島県大会のダークホースになるといわれていたのが、このバンド。指揮者はご存知、昨年まで福岡工業大学附属高校を全国大会に連続して導いていた、屋比久先生。自分としては、真和志中のトッカータとフーガ以来のファンである。
彼のマーチの演出は非常に定評があるが、今日の演奏はその課題曲に多くの課題が見られた。イントロ部分こそ、よくアナリーゼされた分離のいいサウンドが響渡ったが、主題のクラリネットが線が細すぎて、ともすると聞き取れない部分もあったのは残念。そのためか、チューバのボンボンという音がややむなしく響いてしまっていた。その後も随所でタイミングがややズレるなど、らしからぬ部分も見られたが、やはり音楽的な演出と推進力は見事の一言。去年はBの部で出場していたこのバンドを半年足らずでよくもここまでレベルアップさせたものだ。
自由曲は、この指揮者の十八番。かれの棒によるパッサカリアを一度は聞きたいという吹奏楽ファンは多いのである。がしかし、この曲は70年代に流行った曲であり、今の流行の曲と比べるとオーケストレーション的に聞き劣りするのもたしか。その分、より完璧な再現力が要求される。しかし、このバンドの奏者達は、実に見事にロングトーンをぶれる事なく吹きこなし、その欠点を補っていた。これは基礎力を付けるのによほど時間を割いているものと思われる。現時点でまだまだ発展途上にあるこのバンドのプレイヤーたちが次の段階までにどのようにスキルアップしてくるのか非常に楽しみである。

というわけで、この3校が激戦を突破して、鹿児島県代表となった。神村は貫禄の突破、出水中央はたゆまぬ努力を重ねての代表、そして情報は圧倒的な音楽の再現力で他を圧倒した、と分析する。
それでは代表校以外の金賞校の感想を。仕事の都合で、2日目しか聞けていないのをご了承頂きたい。

加治木女子高校
毎年重量感のあるサウンドを聞かせてくれていたこのバンドだが、今年のサウンドは、やや中学生的なそれになってしまっていたのが残念だった。今日の審査講評で、中学生ではない、高校生のサウンドや音楽についての話があったが、このバンドはまさに、そのいい例である。よりダイナミックレンジの広いサウンドで、音楽をどう幅広く表現するのか、そんな追及を今一度スタートさせて欲しい。

鹿児島県立鶴丸高校
このバンドも、課題曲自由曲ともに、サウンドが塊になって飛んでくる感じで、サウンド的には幼さを、音楽的にはアナリーゼ不足を感じさせる演奏だった。個々の技量も高いし、奏者同士の息も合っているのだが、その先、どうバランスを取るか、どんな音色で表現するか・・・・そんな追及に欠けていたのではないかと思われる。つまり、楽曲のオーケストレーションに頼らないのがより大人の演奏なのである。技術やサウンドでは高いレベルにあったと思うが、音楽的な部分(音楽性ではなく、緻密な音楽作りという意味)で代表には届かなかった。

鹿屋中央高校
ここ数年代表の常連となっていた学校のひとつ。課題曲は、やはりそのサウンドが素晴らしく、音楽の推進力もさすがのものを感じた。しかし、自由曲になると、冒頭から繊細さに欠け、夜明けの微妙な映像感はまったく演出されることなく、終わってしまった。そして、全員の踊りの部分でも、ただ音を出すことだけに精一杯的な感じは否めず、終盤はバレエ音楽というよりは、運動会の応援みたいに管楽器と打楽器がバトルしているかのようだった。この曲の演奏どうこうの以前に選曲ミスだったと思われる。しかし、個々の技術は高く、課題曲の再現度も高かったわけで、等身大の音楽でのリベンジを期待したい。

鹿児島県立加治木高校
このバンドの指揮者は大変デリケートに音楽を奏でるのだが、ともすれば流麗な部分はしっかり再現するものの、マーチの勇壮な部分でも、同じ音色で流してしまうために、音楽が立体的にならないという状態に陥りやすい。自由曲でも、謡う部分の演出はすばらしかったが、やはり和の勇壮な部分になると、ややおとなしい印象を与えてしまうのが残念。後半部の緻密なアンサンブルなど、光を放つ演出も時折見られたが、これが全体を通して再現されるようになれば、もうひとつ上の段階に行けると思われるのである。

というわけで、駆け足で今日の感想を書き綴ってきたが、鹿児島県の高校の部の技術的な進歩はしっかりと感じ取ることが出来た。しかし、音楽を奏でるという部分になると、まだまだ研究不足のバンドが多いのも事実で、どう鳴らすかではなく、どう聞かせるかを常に考えて吹奏楽に取り組んで欲しいと思った。しかし、猛暑の中繰り広げられた熱演の数々に触れることができて、これで入場料1000円は安い!と思ったのである。
演奏者の皆さん、そして舞台運営の先生や、補助の生徒の皆さん、お疲れ様でした。

ところで、今日は善意本吹奏楽コンクール三年連続出場記念特別招待演奏で、鹿児島県立松陽高校が演奏を行った。
曲目は、「森の贈り物(酒井格)」と、「科戸の鵲巣〜吹奏楽のための祝典序曲〜(中橋愛生)」。
先の定期演奏会の時よりもさらに精度を上げた演奏で、細かな破綻はあったものの、コンクールの代表校をも圧倒する隙の無い音楽を聞かせてくれた。
来年は、この松陽高校もコンクールに復帰するわけで、さらに鹿児島県大会は激戦区となるはずである。