2008年東京都吹奏楽コンクール・大学・職場・一般の部・本選

府中の森芸術劇場に東京都吹奏楽コンクール、大学・職場・一般の部を聞きに行ってきました。
どの部門も、予選も聞いたので、どう変わっているのか、どう直して来ているのか、楽しみでした。
まずは、今年が最後となる、職場の部。印象に残った団体を。

去年の代表団体、東芝府中吹奏楽
課題曲自由曲を通じて、かなり精度を高めて来ていました。が、ところどころで緊張の糸が切れてしまっていたのが残念。自由曲のステイツ・オブ・マインドは個人的に好きな楽曲で、少々カットの仕方にガッカリ・・・・という感じでしたね。うまい具合に第一楽章を交えて欲しかったです。ただ、全体的には、サウンドのバランスも良く、好演だったと思います。

続いて、去年は3出休みだった、NTT東日本東京吹奏楽
今年は定期演奏会に行きたかったのですが、気がついた時には、すでに売り切れ・・・・という人気バンドです。予選は2位通過でしたが、課題曲自由曲共に、非常に完成度の高いサウンドと音楽に仕上げて来ました。課題曲において、更に音像が飛び交うような演出ができれば、もっと面白くなるのでは・・・・という印象を持った他、自由曲も、更に突き詰める余地が残されていると思います。もちろん、東京職場の部という範疇においては、秀でた演奏を残してくれたのは確かです。

そして、予選では1位だった、ソニー吹奏楽
予選の時も感じましたが、音楽がやや内向きになってしまっていました。人数の割りに、ダイナミックなサウンドをもつバンドで、音楽的にもよく合わさっていましたが、技術的なものから、音楽的なものへの変換がなされるまでには達していないようでした。指揮者は予選と代わっていたようですが、予選・本選を通じて、音楽的な主張が感じられなかったのが、残念です。

というわけで、東京代表の座は、3出休み明けの、NTT東日本東京吹奏楽がゲットしました。ほぼ満場納得の代表選出だったと思います。

続いては、激戦区のひとつ、一般の部。東京のレベルにあって、代表が1団体というのは厳しいですね。ではその中から印象に残った団体を。

まずは、創価グロリア吹奏楽
予選では圧倒的な音楽を聞かせてくれましたが、ここでも、その技術力の確かさを楽しませてくれました。今年から指揮者がまた代わりましたね。それでもプレイヤーひとりひとりの力は揺るぎないようです。ただ、今回はホールとの相性のせいなのか、ややサウンドがこもって聞こえてきたのが残念でした。また音楽的にも、予選の時の方が、主張をもったものに聞こえていました。今回も、代表は逃してしまいましたが、技術力は東京の一般随一のものを持っているのは確かです。

続いて東京正人吹奏楽
このバンドは、定期演奏会にもよく出かける、個人的にも好きなバンドのひとつです。今年は自由曲の選択が面白かったですね。大人の選択、って感じでしょうか。定期演奏会では交響曲全曲を披露していましたが、その分楽曲に対する思い入れも強かったのでしょう。ツギハギの音楽ではなく、コンクール向きの選択ではなく、自分たちがどうしたいのか・・・・その結果だったのでしょう。今回は課題曲、特に中盤のフルートソロの伴奏系のハーモニーの不安定さが非常に残念でした。しかし、全体を通して、バンドのカラーをしっかりと提示した12分間だったと思います。

そして、2年連続の代表の座をゲットしたのが、リヴィエール吹奏楽
東京正人とは裏腹に、コンクールを非常に意識した楽曲発注と音楽表現だったと言っていいでしょう。もちろんそれはそれで、目的意識をハッキリと持ったひとつの選択だと思います。課題曲は予選の時とあまり変わらず、主題が曖昧なマーチでした。一転して自由曲は、天野氏のゴージャスなオーケストレーションと、経験豊富な指揮者の音楽作りが見事に一体化して、ノワールな世界観を作り上げるのに成功していました。

というわけで、一般の部を聞いた感想としては、技術力やサウンドよりも、音楽の描き方に点数が集まった・・・・そんな印象でしょうか。いずれにしても、複数の全国大会経験バンドが集う東京都大会は、毎年聞き応えがあります。

さ、最後は、こちらも全国大会金賞経験バンドが乱立する大学の部。駒澤、創価、中央、玉川・・・・これに本選会常連の立正、東海が勢ぞろいする、まさに大学バンドオールスターの饗宴です。ここから代表になるのはなんと1団体のみ。非常に過酷です。

今年の中央大学は、予選でもそうでしたが、非常に金管サウンドが硬質でした。やはりアレンジものを聞かせるには、サウンドの艶が必要なのではないかと思われます。東海大学は、やはり予選の時と同じように、打楽器の強打が全体のバランスを崩してしまっていました。
また玉川大学は、このふたつのバンドとは裏腹に、木管楽器を中心に艶のあるマイルドながらもダイナミックレンジの広いサウンドでじっくりと音楽を奏で聞かせるスタイル。玄人受けする音楽的演出でしょう。

さて、金賞バンドのひとつ創価イオニア吹奏楽
課題曲は予選とは見事に違う解釈で、ひとつひとつの要素がクリアに浮き上がっては消えて行くという、課題曲2番のお手本のような解釈でした。自由曲の宇宙の音楽は、一昨年とは違うカットで、やや間延びする部分もありましたが、サウンドの持続力がそれを補っていたのが印象的でした。特にコラールの部分は圧巻で、理想的な音の積み重ね方だったと思います。思わず涙的な空間を作り出していました・・・・が、それを遮るように鳴っていたシンバルの金属音が残念でした。このバンドは打楽器の強打が音楽の流れを崩すのを今までもよく見てきましたが、個人的には少々いただけないと思うのですが・・・・。それにしても、予選の6位通過から大逆転での金賞、お見事でした。

続いて、立正大学
このバンドが課題曲5番を演奏し始めてまもなく、落雷による停電で場内が真っ暗になりました。その後客席のライトは点灯しましたが、ステージはまだ真っ暗。それでも演奏を続けた奏者たちは立派です。というよりも、主催者側はもっと早く演奏中止の指示を出すべきではなかったでしょうか。そして10分ほど経って、再び演奏開始。どうなんでしょう、緊張感は維持出来たのでしょうか。課題曲は、やや緩い印象を持ちましたが、自由曲のアンサンブルは見事で、独自の世界観を作るのに成功していました。

そして、この日の大トリは、駒澤大学
東京を代表する大学バンドのひとつです。予選では、特に自由曲のサウンドに圧倒されましたが、この日は課題曲も更に精度を高めてきました。課題曲は冒頭から、最後まで緊張感を乱すことなく、恐ろしいほどに冷静沈着に音楽を進めていきます。冒頭で雷の音が聞こえて来ましたが、そのタイミングがまた絶妙で、バスドラムのロールのように、楽曲に溶け込んでいました。そして自由曲、交響的断章。ファンには嬉しいここ最近の駒澤大学の選曲眼。まさにひとつひとつの音楽の要素が、塊になって飛び交う、いわば3次元的なサウンドと演奏で、もはや楽譜に書かれている強弱記号などは全くこのバンドの音楽には関係ないもののように思われてきました。ひとつひとつの要素をあそこまで正確に全体のサウンドとして昇華させる原動力はどこにあるのか・・・・そんな事を考えさせられる演奏で、これまでに誰もなし得なかった境地にこのバンドは行こうとしているんじゃないのか・・・・そんな印象も持ちました。とにかく、ため息と驚愕の12分間だったと言えるでしょう。全国大会で更にどこまで精度が高められていくのか・・・・恐ろしいほどに楽しみです。

というわけで、東京代表は、ほぼ満場納得で、駒澤大学がゲットしました。勿論、どのバンドも非常に個性的で、大学の部は、毎年聞くのが楽しみです。願わくば、代表枠が増えてくれると、学生さん達も頑張り甲斐があるのに・・・・と思ってしまいます。

今年はいろいろと地区大会を聞いてきましたが、これまでに比べるとサウンドや技術力もさることながら、「意志を持った音楽」をしっかりと演出できているか・・・・そういう部分がアマチュアバンドに求められるようになった・・・・そんな印象を持ちました。また自由曲の完成度の割に、課題曲まだまだ追求する余地あり・・・・というバンドが多かったのも事実です。12分間というキャンパスを、色ムラなくそれぞれの個性で塗り込める・・・・そんな演奏に巡り合えるのを、今後も楽しみにしていたいと思います。

夕方は雷を含む豪雨となりましたが、朝からの長丁場、みなさんお疲れさまでした。