全日本吹奏楽コンクール・中学校の部

blueoceans122008-10-18

東京普門館に、全日本吹奏楽コンクール、中学校の部を聞きに行ってきました。
この週末は、穏やかな秋晴れで、楽器の搬入などにもプラスアルファの苦労が起きる事もなく、良かったですね。ただ、今年は初出場団体や久々の登場団体が多かったせいか、特に打楽器のステージへの搬入搬出がモタモタしていて、ハラハラさせられました。さすがに、古豪の出雲一中や山王中、生駒中などは、すっきりとした搬入、素早い搬出で、非常に見ていて気持ちよかったです。こうした学校には、ステージマナーの金賞を差し上げたいですね。
さ、それでは、地区ごとに、出場校の感想を軽く。詳しくは後日ホームページの方にアップする予定です。

まずは南の九州から。ここ2年ほど鹿児島と沖縄の学校が独占していた代表だったが、今年は福岡から2校、佐賀から1校という結果になった。今回の代表校3団体に共通していたのは、ややサウンドや音楽作りが時代に逆行しているかな、という部分だろうか。まずは、佐賀の成章中学校。課題曲自由曲共にやや焦点がボケていたのが残念。特に自由曲はサウンドにエッジがないと、その良さを充分に表現できないのだが、九州大会ほどの精度は見られなかった。続いて、福岡の中間東中学校。非常にボリューム感のあるバンドだが、選んだ自由曲はどちらかというとモノクロームな雰囲気を持った楽曲。ということは、バンドの持つサウンドの色彩や陰影感が非常に音楽に影響するわけである。そのためにどうサウンドを作り、バリエーションを豊富に持つか・・・・そうしたアプローチが必要なのではないだろうか。そして、福岡の宇美東中学校。かつて3出を果たした、須恵中学校の元顧問の先生が率いる新しいバンドである。課題曲自由曲共に、非常に丁寧に音を積み重ねていたが、その後どう料理し、何を聞かせるか・・・・というアプローチにまでは至っていなかったのが残念だった。

続いて、中国。25年という代表校の連続金賞記録を更新している地区である。まずは山口県岐陽中学校。女性指揮者特有の非常に素直で艶のあるサウンドと音楽表現に好感が持てた。しかし、その分全体を通してやや単調な展開になってしまっていたのが残念だった。続いて広島県府中中学校。初出場ではあるが、顧問は元海田中学校の先生である。コンクールを知り尽くした先生らしく、全体を通してソツなく、ひとつの音楽の流れを作り上げるのに成功していた。がしかし、中国大会でも見られた細かいキズが、今回も多く見られたのが残念。来年に向けて個々の奏者のスキルアップを図るのが課題となるだろう。そして出雲第一中学校。指揮者が交代しても、全国大会に出続けて来る底力は素晴らしい。おそらくこのバンドの奏者の技量とサウンドの表現力は中学の部を通じてもトップを争う位置にあるだろう。それをひとつのツールとして、どう音楽を展開してオーディエンスに印象付けられるか・・・・今このバンドに足りないのはこの部分だけである。奏者の力を存分に聞かせる選曲と音楽的アプローチが望まれる。というわけで中国代表は3校共に銀賞を受賞。この次点で中国代表の連続金賞記録は25年でストップ。しかし、歴史はまた新たに築きあげれば良いものであり、大切なのは生徒達が吹奏楽に参加した事で、何を感じ取り、糧に出来たか・・・・であるはずなのである。

瀬戸大橋を渡って次は四国。まずは徳島の国府中学校。非常によく楽譜を追っている演奏ではあったが、すべてがステージの上で終結している感があったのは否めない。音楽を演奏するのは、何かを人々に伝えるため・・・・そういう基本的な第一歩からもう一度音楽を見つめ直してみてはどうだろうか。そして愛媛県松山南中学校。以前のアグレッシブな女性顧問は教育委員会に行ったらしく、新しい顧問は椿中から赴任した先生である。というわけで経験も豊富なはずなのだが、課題曲の冒頭からサウンドにバラツキがみられたのは非常に残念。自由曲の最後までそれを修正する事が出来ずに突っ走ってしまったようだ。指揮者と奏者のコンビネーションの確立はこれから・・・・というところだろうか。

続いて関西。トップバッターの天王寺川中学校。課題曲自由曲共に、輪郭のハッキリとした音楽が印象的だった。サウンドもタイトで、特に自由曲はドラムセットのリズム感も素晴らしく、管楽器も4ビートにうまく乗っかっていた。ただ、映画のシーンが変わっていくのと同じように、サウンドの変化にも工夫を凝らしてもらいたかったと思う。続いて、本庄中学校。課題曲自由曲を通じて、全体的に焦点がボヤけた音楽になってしまっていたのが残念。音楽を奏でる前の準備段階に、更に時間と労力をかける事で、少しずつ解決して行ける問題なのではないだろうか。そして生駒中学校。このバンドはサウンドと音楽の粒揃いが素晴らしく、ひとつひとつのサウンドが分離しているのに、音楽が常に一体感を持ってオーディエンスに伝わって来るのが素晴らしい。課題曲はややバランスを崩す場面も見られたが、自由曲は圧巻。他の追随を許さない揺るぎない音楽作りは、お見事である。

さて、東海地区。まずは千代崎中学校。女性指揮者らしいしなやかさに、時折見せるアグレッシブなサウンドと音楽のコントラストが素晴らしいバンドである。今回のような地味な自由曲も、色彩感豊かに聞かせる先生と生徒のコンビネーションには拍手を送りたい。続いて日進中学校。非常に粒だちの良い、クリアなサウンドと音楽が印象的だった。ただ、全体的に一本調子になりがちで、シーンに沿った音楽展開がなされれば、更に音楽に味わいがでてくるだろう。そして柳町中学校。課題曲自由曲共に、全体的に大味な音楽になっていたのが残念。やはりラベルの音楽を色彩感豊かに表現しきるのは、今の中学生には重荷なのだろうか・・・・。

続いて北陸。まずは富山の小杉中学校。課題曲自由曲を通じて、サウンドがやや乾燥していたのと、音色のバリエーションに乏しかったのが残念。音楽を表現するためのツールをどうスキルアップして行くか・・・・そんな事を考え研究する事も大事なのではないだろうか。そして福野中学校。初出場ながら落ち着いた演奏が心強かった。北陸バンドらしくブラスサウンドが非常にきらびやかで、自由曲のソロも芯の通ったサウンドが会場の隅々まで行き渡っていた。やや音楽がせわしない印象もあったが、中学の部としては及第点だろう。

続いて東京代表。まずは小平第六中学校。この学校は以前にも何度か全国大会に駒を進めているが、そのときとは指揮者も代わり、サウンドも音楽も別バンドである。非常に個性的な課題曲がどう評価されるか心配だったが、圧倒的な技術力を見せつけた自由曲の前では、そんな細かな事はどうでも良かったようだ。そしてもうひとつ、同じく小平市小平第三中学校。都大会からすると格段な進歩を見せていたのが印象的だった。熟練の指揮者のもと、課題曲自由曲共にしっかりと主張をもった音楽を展開していた。

そして西関東。まずは芝東中学校。出演順が早かったせいもえるのだろうが、音楽がステージ上で集結してしまっていて、オーディエンスにまで伝わってこなかったのが残念。やはり普門館の朝は奏者にはつらい条件である。続いて伊奈学園。高校と共にアベック出場となったが、やはりその柔らかいサウンドは心地よい。が、特に自由曲において、リズムのとり方やフレージングがやや不自然で、奏者個々の技術力が高いだけに、悔やまれた。そして飯能第一中学校。午後になって音楽を大きく表現する団体が続く中で、ややこぢんまりとし過ぎている印象を感じたのは事実。音楽を表現してオーディエンスに伝えるという事はどういう事なのか・・・・この解答を掴めれば、飛躍するハンドに違いない。

続いて東関東。まずは習志野第五中学校。非常に洗練されたサウンドをもったバンドだなという第一印象をもった。音楽的な表現力も持っているバンドだが、ややサウンドのバリエーションが少ないかなという感じがしたのも事実である。特にラベルの楽曲は色彩感豊かなサウンドがなければ、その世界観を伝えきる事は出来ないだろう。続いて酒井根中学校。今や西の生駒、東の酒井根と言われるほど、日本のトップクラスの中学バンドである。課題曲の冒頭の音から自由曲のラストまで緊張感が途絶える事なく、揺るぎない音楽を構築していたのは立派。今の中学の部の中にあっては、もう何もコメントする必要はないだろう。そして、和名ヶ谷中学校。女性指揮者らしく、繊細でエッジのハッキリとしたサウンドは今年も健在。自由曲はどちらかと言うと、可もなく不可もなしという感じだったが、ガイーヌでは本領を発揮。鮮やかなシーンの移り変わりを的確に演じて、フィナーレを喝采のうちに迎えていた。

さ、つづいては東北。まずは福島の向陽中学校。去年まで小高中学校を率いていた顧問が赴任していきなりの全国大会出場。課題曲冒頭からブラスサウンドが活躍しすぎる感じで、サウンドの統制がまだ出来ていないようだ。自由曲も含めて木管楽器が非常にいいサウンドと技術を持っているので、そのサウンドブレンドし合うような品のあるブラスサウンド作りを目指してはいかがだろうか。続いて秋田県湯沢南中学校。非常にバランスのいいサウンドが印象的で、課題曲自由曲を通じて安定抜群の音楽を作り上げていた。去年も金賞にほど近い演奏だと思った記憶があるが今年は更にスケールアップして来ていたのが頼もしい。そして古豪、山王中学校。初代黄金期を作った指揮者の息子さんが現顧問。課題曲はやや荒さが目立ったが、自由曲の音楽的構築力が圧巻だった。サウンドはまだ硬さのみられる部分が多かったのも事実だが、指揮者と奏者が一体となって作り上げた圧倒的な音楽の前ではそういうことも気にならなくなってしまう。

最後は北海道。まずは厚別北中学校。ローマの祭り連続金賞記録を一身に背負っての登場。って勿論本人達は全然知らないのだろうが。課題曲はやや安全運転の感があったが、自由曲になると一転。非常に統制の取れたポジティブな祭りを披露してくれた。中学生の祭りとしては、レベルの高い演奏力と音楽力だったと思う。そしてもうひとつが北白石中学校サウンドは安定しているのだが、音楽作りが道半ばにして全国大会を迎えてしまった・・・・という感じではあった。やはり何を奏でたいのか、何を伝えたいのか・・・・そういうアプローチも今の時代の中学校の部では必要なのではないかと思われる。

というわけで、以上がザッと感じた中学校の部の感想。
冒頭にも書いたが、今年は初出場団体が多いということもあったのか、ステージ進行が押し押しの大会となってしまった。全国大会クラスの団体であれば、やはりスムースにセッティングし、演奏終了後は、無駄なく楽器を片づける・・・・そうしたシミュレーションもしっかりとやらなければいけないのではないかな・・・・と思った次第。
演奏面については、課題曲を軽く扱っている団体が多く見受けられたのも事実。課題曲の完成度は全体の印象を決めるバロメーターでもあるので、更なる取り組みが必要なのではないかな、とも思った。
一部では中学校の部は低調だった・・・・みたいな事も言われているが、今は今後中学生の吹奏楽シーンがどういう方向に行こうかと試行錯誤し、その出口を見つけようとしている過渡期・・・・そんな風に感じたのだがいかがだろう。そして金賞の上位校は、一足早くその回答を見つけたのではないかな・・・・と思った中学校の部だったのである。