全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部

blueoceans122008-10-19

昨日の中学校の部に引き続いて、高等学校の部を聞きに、普門館に行ってきました。
詳しい感想は後日、ホームページの方にアップするとして、地区別に聞いた感想などを少し。

まずは、北海道代表。今年は常連の東海大四高と、白石高校。前半の部に登場した白石高校。課題曲自由曲ともに音楽そのものは無難にまとめていたが、管楽器の発音がやや不明瞭で、特に自由曲においてサウンドのエッジの無さが楽曲の魅力を半減してしまっていたのが残念。もう一度初心に戻って、それぞれの楽器本来のサウンドを追求してもらいたいもの。東海大四は、課題曲自由曲ともの非常に王道の解釈で、何よりも個々の奏者の完成度が高いのが強み。別の解釈を持つ指揮者が振っても、すぐに対応して全く違った音楽を高いレベルが再現させるであろうというブレのないサウンドは高い評価を得たはず。今年はダブルリードにやや不安があったかな・・・・。とはいえ、聞きなじんだ楽曲に敢えて挑戦しての、危なげない見事な世界観での金賞受賞。自由曲終盤は、この2日間の普門館でのコンクールのエンド・ロールを見ているかのような、オーディエンスの空気感をも巻き込んだ哀愁漂うトゥッティに魅了された。

続いて、東北代表。まず朝一の登場となった秋田南高校。課題曲自由曲共に非常にエッジの効いたサウンドが印象的だったが、ややサウンドのバリエーションが少ないかなという印象。鋭角的な部分だけでなくソフトな部分も併用できれば、更に音楽の色彩感が広がるのでは。続いて福島県湯本高校福島県の代表お得意のバルトークを選曲。課題曲はもっと高校生ならではのアナリーゼが欲しいところだったが、自由曲の役人はやはり圧巻。この曲で気合が入ると破壊しがちなトロンボーンも非常に的確なエッジを保ち、場面が目まぐるしく展開して行く様を見事に表現できていたのは脱帽の一言。そして、宮城県泉館山高校。自由曲課題曲共に、よくさらっているという印象で、更にそこからどう音楽として聞かせるか・・・・というアプローチにいたっていなかったのが残念。高校の部クラスになると、その辺りのレベルまで求められてしまうのである。

続いて東関東代表。今年は御三家の一角が崩れた波瀾の年だった。まずは習志野高校。登場の仕方も鮮やかで、課題曲では満面の笑みを讃えて演奏する姿が印象的だった。視覚的早い出演順だったが、自由曲冒頭のトランペットも揺るぎない存在感を持っていて、合奏部分でもそのサウンドは揺るぎなく、また場面場面で持ち前の多様なサウンドを登場させて行く手腕はお見事の一言だった。続いて柏高校。午後は、耳をつんざくような爆音バンドもいくつかみられたが、おそらく瞬間最大の爆音を有していたのはこのバンドだったと思われるが、それを爆音に聞かせないのがこのバンドの素晴らしさなのだろう。自由曲終盤にかけての圧倒的な音楽展開には舌を巻くばかり。更に、課題曲では、アナリーゼ力が素晴らしく、「天馬の疾走」から「天馬の嘆き」の部分まで非常に感情表現豊かな再現ぶりを見せていた。そして、横浜創英中学校高校。課題曲はそつなくこなしていたが、自由曲ではやや焦点がボケてしまった印象で、その輪郭を捉えることができないまま終わってしまった印象だった。美しい音色を持っているだけに、音楽的なアプローチ不足が惜しまれる。

次は西関東代表。まずは、春日部共栄高校。非常に豊かなレンジと色彩感溢れるサウンドを持っているバンドである。が、課題曲がややアナリーゼ不足だったかなあという印象を持った。自由曲も非常に高度な技術を披露していたが、音楽的なひとつの線みたいなものが感じられなかったのが残念。続いて、初出場の松伏高校。課題曲の滑り出し、2つの楽器の音色が全く離反していたのが、非常に惜しまれる。この課題曲は2つの異なる性格を持った楽器のユニゾンから始まり、それが次々に離反状態になり、最後に再びふたつの楽器のコラボで劇的に終了する曲なのだが、最初のシーンを演出出来なかったのは痛い。自由曲でもややサウンドのまとまりに欠けていたのが残念だった。そして伊奈学園。あいかわらずの柔らかいサウンドに、客席に空気までまろやかになっていたのが印象的だった。課題曲のアナリーゼぶりも素晴らしく、自由曲における探究心の深さもお見事。好き嫌い等は色々あると思うが、この個性は素晴らしいものだと個人的に思う。

続いて東京代表。まずは東海大学菅生高校。課題曲の冒頭を効いた瞬間、東京都大会からの成長ぶりに目を見張った。そしてこのバンドは木管、特にクラリネットの重厚なサウンドが印象的である。この日は自由曲でも金管楽器木管に負けじと、艶やかながらもきらびやかなサウンドを披露して、木星の華やかな世界観を見事に再現していた。そして、八王子高校。こちらも木管楽器が非常に存在感を持ったバンドだが、それは課題曲において、途切れることのない音の受け渡しを完璧なものにしていた。自由曲ではやや金管楽器の弱さが出てしまったが、奏でられた音楽の大きさがそれを上回っていた。

そして北陸代表。まずは高岡高校。北陸のバンドはそのきらびやかなブラスサウンドが魅力だが、そういう意味で自由曲の選択が的確だったといえるだろう。ショスタコの楽曲の持つ陰影感の演出の見事で、鮮やかな名演を残した。何カ所かアレンジに不自然な部分が見られたが、それが流れを遮ってしまっていたのが惜しい。そして金沢市立工業高校。全体を通して、ややサウンドにバリアが張られた感じで、エッジ不足が気になった。そういう意味で元々難解な部分のある自由曲が、さいごまで解明されず答えを出せないまま終わってしまったのは残念だった。

続いて、東海地区。まずは去年金賞を受賞した光ケ丘女子高。課題曲の冒頭からサウンドがバランスを崩していたのが残念。音色そのものも非常に乾いた感じで、やや音づくりに失敗した感は否めない。自由曲ではやや持ち前のサウンドを取り戻していたが、もう一度原点に立ち返って、個々の楽器本来のサウンドを取り戻してもらいたいものだ。続いて長野高校。課題曲冒頭はもっと神経を尖らせて気持ちを合わせて欲しかった。全体的に大味な課題曲になってしまっていたのが残念。自由曲では、ドビュッシーのハーモニーはよく研究されていたが、ソロ楽器を中心にピッチが不安定だったのが悔やまれる。そして安城学園。持ち前の躍動感溢れるサウンドと音楽の推進力は健在だったが、終始同じ色合いの音楽が進行する感じで、場面場面で様々なバリエーションのサウンドが登場して来ると、音楽に広がりと奥行きが出るのではないかと思われる。奏者が安定した技術力を持っているだけに勿体ない感じがした。

そして関西。まずは、淀川工科高校。関西大会ではいまひとつ本調子ではなかったようだが、この日の演奏は素晴らしかった。課題曲のマーチはお手の物。自由曲も晩夏の風物詩的な感じで、全く危なげなく、観客を魅了していたのはさすがである。また、会場のセッティングの速さも素晴らしく、もたもたとセッティングするバンドも多い中、お手本にしてもらいたい存在である。続いて、天理高校。顧問が代わって、しばらく地区大会で止まっていたが久々に全国大会に復帰して来た。しかし、顧問は代われど、伝統は変わらず。あいかわらずのタイトなサウンドが非常に心地よかった。課題曲自由曲を通じて、しっかりと研究された音楽、そして色彩感豊かなサウンドは、嬉しい復活である。そして、大阪の明浄学院。課題曲自由曲を通じて、非常によくまとまったタイトなサウンドが心地よい演奏だった。その分、音楽的な昂りに欠けていたのが残念だったが、非常に高い演奏技術がそれを凌駕していたようだ。

続いて、中国地区。まずは岡山学芸館。午前の部、サウンドが開ききってしまうバンドが多い中、非常にまとまり感のあるサウンドと素直な音楽表現が好感を誘った。派手さはないが、地道にじっくりと音楽を積み重ねてきた姿勢は素晴らしい。続いて、おかやま山陽高校。ここ数年激戦区となった中国地区から久々に登場。課題曲の冒頭のミスは惜しまれるが、その後の立ち直りと展開ぶりは往年のものを感じさせるものがあった。自由曲も非常にいい選択で、今後流行りの1曲となるのではないだろうか。これをステップにまた鮮やかな音楽を展開してもらいたいものだ。そして、出雲北陵高校。いわゆる出雲サウンドをしっかりと継承しているバンドのひとつだろう。しっかりとアナリーゼされた課題曲は冒頭のサウンドの豊かさが非常に心地よい。自由曲はやや不思議な解釈のディオニソスだったが、自信を持って音楽を展開させているパワーに圧倒された。これでサウンドに締まりが出ると、化けるのではないかと思う。

続いて四国。まずは常連の伊予高校。課題曲自由曲ともによく演奏されているが、サウンドの種類が乏しいのか、音楽的な色彩感に欠けていたのが残念。自由曲も、ことフランス近代のものについては、更なるアナリーゼと、奏法の研究が望まれる。そして、北条高校。課題曲自由曲を通じて、とにかく鳴らすということだけに集中して来た・・・・そんな印象のバンドだった。朝一ならともかく、午後のこの時間に爆音を出せば、それは音楽以前の問題になってしまう。奏でること、歌うこと、そして音楽を聴くことの楽しさは何なのか・・・・いまいちど考えてみる必要があるのではないだろうか。高度な演奏技術を持っていても、その前に音楽の心を持たなければ、宝の持ち腐れになってしまうのである。

最後は九州。まずは、穂高。去年久々に全国大会に復帰して来たバンドであるが、この1年間に得た自信というのが、いかに大きかったかがわかる演奏だった。課題曲自由曲共に、非常に色彩感豊かなサウンドで、音楽の場面場面を描いて行くような音楽作りに非常に好感が持てた。ただ、ここぞという山場が見られなかったのが残念。おそらく弱奏部分における繊細さの不足ではないだろうか。しかし、これから1年でまた更に進化して行くのだろうという予感をもたせる演奏だった。続いて、鹿児島情報高校。2年前に顧問が代わり、バンドも生まれ変わったと言っていい。つまり、今年のバンドは1〜2年生主体のバンドというわけだ。そういう部分で、やや木管楽器が体力的に弱いために、サウンドの完成は来年まで待たなければならない。しかし、その訓練の行き届いた音楽作りは素晴らしく、弱奏部分での恐ろしいまでのサウンドの安定感はお見事。音楽的な演出も、熟練指揮者ならではのものである。そして、精華女子高校。多くの吹奏楽ファンが精華女子高に望むこと・・・・それをまさに実体化したのが今年の自由曲ではないだろうか。課題曲の冒頭はやや硬質なファンファーレが気にはなったが、その後の展開が素晴らしい。マーチの課題曲において、旋律を一環して明確にかつ表情豊かに演奏できていたのはここだけである。そして圧巻は自由曲。めまぐるしく襲ってくる主題のひとつひとつを、ライトセーバーで確実にクリアして行くかのような再現ぶりはお見事。2008年を代表する激演を残してくれた。

というわけで、少しずつと言いながら、ひとつひとつの学校の演奏を思い起こしながら書いていると意外と長文になってしまったが、個々の技術、合奏力、譜面の再限度についてはかなりの高レベルに来た感のある高校の部。
がしかし、感情の昂りから来る音楽的な表現となると、まだまだ開拓の余地があると感じたのも事実。いくつかの学校、たとえば柏高校の課題曲などに、そうしたアプローチは見えたりもしていたが、今後は楽譜に明記されていない、作曲者が思い描いていた心情描写、そこまでもが求められてくる時代になって来たのではないだろうか・・・・そんな予感を感じさせてくれる今年の全日本吹奏楽コンクール・高校の部だった。
みなさん、お疲れさまでした。奏者のみなさん、楽しい時間をありがとう。