2012年東京都吹奏楽コンクール職場一般の部

日曜日は、大学の部のに続いて小学校の部、そして職場一般の部が開催されました。
その職場一般の部の中から、印象に残ったバンドの感想を。

まずは東京代表の2団体から。

東京隆生吹奏楽(畠田貴生)
昨年初代表になった、バンドの登場です。去年はまだサウンドも音楽スタイルも若々しいというかんじでしたが、今年は安定感が加わり、音楽もさまざまな表情を見せるようになっていました。やや低音不足かなという印象ですが、トゥッティでも音像がクリアなのはその影響もあるのかも知れず、難しい部分でもあるのでしょう。課題曲4番は手慣れた演奏で、主旋律対旋律、そしてリズムの刻みがクリアで、それらが絶妙に絡み合うという、お手本に近いマーチでした。自由曲でも自在な演奏力を見せていましたが、部分的にアンサンブルが乱れたり、音の処理が粗雑になっている部分も見られ、完成型にはまだ至っていないなという印象でした。

デアクライス・ブラスオルケスター(佐川聖二)
確か結成1年目に東京代表になったと思いますが、今年は見事な返り咲きです。課題曲3番はなかなかコレという名演に出会えないのですが、このバンドもご多分に洩れず冒頭の打楽器はやや転び気味にスタートします。全体を通して勢いにまかせていたかなという印象でしたが、中間部は大人ならではの歌い方を魅せていました。主旋律が更に際立つと、感銘度も上昇する事でしょう。弱奏部のピッチにもより繊細な対処が求められます。自由曲は、「今年こそ」という意気込みの感じられる勢いを持っていましたが、全体を通して繊細さに欠けていたのが残念でした。お楽しみはまだまだこれから、という感じでしょうか。

続いて、代表になれなかった金賞団体です。

NTT東日本東京吹奏楽山田昌弘
課題曲4番は全体を通して、やや慎重になりすぎかなという印象で、躍動感や推進力が感じられなかったのが残念でした。また、時折微妙な発音ミスが見られましたが、レベルの高い本選では、ケアレスミスは最小限にとどめたいところです。音楽の要素のひとつひとつを一本の大きな流れにまとめ上げる事の難しさを感じたマーチでした。自由曲では、木管楽器にやや弱さを感じましたが、このバンドの懸案であるサウンドのクリアさは、そこに原因があるのかも知れません。演奏の精度は高いのですが、音楽の焦点が定まらず、なんとなく終わってしまったかのような印象を、どうしても受けてしまうようです。

プリモアンサンブル東京(上原圭詞)
予選本選を通じて、特に管楽器の演奏力の高さを感じたバンドでした。演奏力というのは技術力だけではなく、発した音のひとつひとつが音楽的であるかどうかも含めた印象です。そのため、音楽の流れが終始スムースで、非常に自然な歌い方歌い込みを楽しむ事ができました。予選の時に目立っていた打楽器の過度の強奏も、この日は絶妙なバランスで全体の音楽を支えていました。弱奏部のハーモニーの安定度も素晴らしく、極上の世界観を持った演奏だったと思います。ただ部分的にサウンドのバランスがもうひとつという部分が見られたのは残念でした。僅差を争う東京の一般の部においては、更に精度の高いバランス取りが求められるようです。しかし、個人的にはこの日最も心を捉えられた音楽でした。

板橋区吹奏楽(大橋晃一)
特に金管が余裕のある音量を持ったバンドのようで、そういう意味で課題曲2番と交響的断章の組み合わせはベストマッチングだったと思います。が、課題曲では終始ハーモニーが不安定で、音楽の流れがせき止められた感が漂い続けていました。木管サウンドにも更に大人ならではの艶が欲しいところです。自由曲は、今年の流行り曲のひとつですが、随所でアンサンブルの乱れはあったものの、きらびやかなブラスサウンドを全面に押し出した、快演だったと思います。

その他、銀賞バンドの中では、本選でも自分たちのスタイルを貫いた個性溢れる音楽を聞かせていたソウル・ソノリティ、銅賞バンドの中では、豊かなレンジを持ったサウンドと、堅実な音楽作りが光った豊島区吹奏楽の演奏が印象に残りました。個人的には豊島の銅賞が最も酷だなと思いましたね。
東京大会は相対評価なので、たとえどんなに接戦でも必ず賞が分かれてしまいますが、どのバンドも下克上が可能な可能性を持っているなというのが正直な感想です。これに今年お休みのグロリアが加われば、おそらくは全国大会よりも面白い個性的な大会であるのは間違いありません。全ての団体に感動をもらった素晴らしい大会でした。

2012年東京都吹奏楽コンクール大学の部本選

全国的に不安定な気候の中、府中の森芸術劇場に、東京都吹奏楽コンクール大学の部を聞きに行ってきました。
その中で印象に残った団体の感想などを少し。

東海大学
全国金賞経験バンドがひしめき合う激戦の東京代表を射止めたのは、去年に引き続いて東海大学でした。課題曲5番は、この日この曲を演奏した団体の中でも、アナリーゼ力が群を抜いていました。もちろんその要求に的確に応えていた奏者達の演奏力の水準も高く、音楽の素材のひとつひとつが、絶妙に絡み合いながら、ひとつの的へと向かって集結し終結して行く様が鮮明な、格調の高い音楽作りが印象的でした。自由曲は、同じ長生作品で続けてきましたが、今年は、各地でこの組み合わせに遭遇しました。この楽曲の特性なのかも知れませんが、課題曲に比べると、やや乱雑な音楽的処理がかいま見られましたが、これは意図的な演出なのでしょうか。終盤の主メロの再現部も、個人的には更に歌い込んでもらいたかったところですが、12分間の中に最高のストーリーを描ききった集中力に、殆どのオーディエンスが代表選出を確信した事でしょう。

中央大学
課題曲3番の冒頭は、絶妙な打楽器と管楽器のバランスでスタートしました。リズムが時折転びがちな部分もありましたが、楽曲の持つ和の世界と洋の世界のコラボレーションはお見事でした。そんな中で、中間部の入りと出の部分、弱奏のハーモニーにブレが見られたのは残念でしたが、終盤は音楽に生命力が溢れている感が非常に心地よかったと思います。自由曲は、このバンドを木管主体のシンフォニックバンドとして大成させようという意図が感じられる選曲でしたが、木管サウンドに更に厚みや艶が加わると、音楽が重力を感じ始めるのではないかな、という印象でした。そういう意味では過渡期にありながらゴールは目の前、という感じで、時間をかけて練り上げ積み上げてきたその集大成が見られるのも、そう遠い事ではないと思います。余談ですが、林紀人氏を会場でお見かけしました(笑)。


創価大学
非常に安定したハーモニーでスタートした課題曲1番。コンクールの予選も終盤に来て、この1番の秀演をひとつでもたくさん聞くのが、このところの楽しみになっています。この創価大学の演奏もそのひとつになったわけですが、このように主旋律と対旋律、そして伴奏がクッキリしている曲は、練習すればするほど旋律を覚えてしまうので、本番に向けてバランス取りにはより慎重さが必要です。そういう意味で、主旋律かやや埋もれ気味だったのが、残念でした。しかし、大学生という世代ならではの秀逸な1番を堪能させてもらいました。さ、一転して、音の塊がホールを縦横無尽に駆け抜けた交響的断章ですが、オーディエンスがそこにいる限り、派手な中にも繊細さは必要で、やや自分たちで酔い気味の演奏になってしまったのが残念でした。課題曲で抑えられたエネルギーをコントロールし切れなかった感じでしょうか。

駒澤大学
課題曲2番は、この曲のオーケストレーションの限界をまさに感じさせる演奏になりました。冒頭のファンファーレから、サウンドが開き気味で艶の無い音楽に聞こえたのは、このバンドだけでなく、課題曲2番を取り上げた数々のバンドで散々聞かされてきました。演奏という部分では、終始スネアが管楽器より大きく響いてくる感じで、その辺りの絶妙なバランス取りを施して欲しかったところです。個人的には4番の方が駒澤サウンドに合っていたのではないかと思います。自由曲のローマの祭においても、音楽のひとつひとつの要素がチグハグで、奏者の高い演奏力をひとつの音楽に昇華させる事ができないまま終わってしまった感じでした。しかし、トランペットの伸びの良いハイトーン等、技術的に後退したわけではないので、やるべき事をやれば、いつもの音楽に戻る事でしょう。

玉川大学
課題曲5番は、豊かな音量と艶のあるサウンドを聞かせていましたか、ひとつひとつの素材の処理が曖昧で、音楽の骨組みがクッキリとしない不明瞭なものになっていました。しかし、一時期の、靄がかかったようなサウンドからは完全に脱皮したようで、見合った選曲との相乗効果を今後期待したいところです。そういう意味で、自由曲についても、バンドに見合った選曲が求められるところでしょう。

立正大学
課題曲3番は、やや打楽器がバランス過多かなという印象でスタートしましたが、朝一番にも関わらず、満遍なく楽器の音が出ていたのが印象的でした。ただ、やはり中間部のハーモニー等が不安定なのは否めず、出演順1番の壁を感じました。しかし、全体を通して歌い方も充分で、楽曲の持つ世界観を的確に再現していました。管楽器のサウンドは、もう少し厚い部分があってもいいかなという印象で、特に低音楽器の充実が求められるところです。自由曲になると、サウンドがやや開き気味になり、ブレンド感が失われたのが残念でした。

この6大学のほか、亜細亜大学帝京大学が今回の本選に出場しました。大学バンドは、全体的に音量を出しすぎではないかなというのが総合的な印象で、もっともっと繊細な音楽作りを来年は望みたいところです。それにしても、せっかく緻密に積み上げた音楽の数々、異常にライブな響きのこのホールでの審査はやや酷なのではないかな、という気が改めてしたのも事実です。接戦激戦になればなるほど、より細かく聞き分けられる適度にデッドなホールで演奏させてあげたいと思ったのは、私だけではないはずです。
さ、そして2年連続の代表となった東海大学、宇都宮での更にパワーアップした怪演を期待しましょう。

2012年中国吹奏楽コンクール・高校の部

吹奏楽コンクール中国大会を聞きに、鳥取県にあるとりぎんホールに行ってきました。
「とりぎん」という焼鳥屋が東京にもありますが、この「とりぎん」は多分鳥取銀行の事ではないかと思われます。(笑)
それでは演奏の感想などを簡単に。まずは代表団体から。

出雲北陵高等学校
課題曲5番が続きましたが、非常にアナリーゼが施された演奏で、曖昧になりやすいひとつひとつの要素がしっかりと塊となり、会場に絶妙にブレンドされて聞こえてくる手腕は、さすがです。緊張の糸も寸断される事なく、音楽が流れて行きました。自由曲は、エルザのニューアレンジ。オフステージのトランペットはこの会場では扉が閉まってしまう為に効果が半減してしまったのが残念でしたが、会場が違えばその醍醐味を味わえる事でしょう。その後、やや唐突に始まる大聖堂への行列ですか、アレンジに対していくつか感じた不満も、揺るぎないハーモニーと、音楽を聞かせようという姿勢が全てを帳消しにしていたようでした。そんな中でも、主旋律がもっと浮き出てくると、更に感銘度は増すはずです。

岡山学芸館高等学校
課題曲4番は、ダイナミックレンジの広い締まったサウンドと高い技術力で、程よい推進力を持っていましたが、やや6/8のリズムか転んでしまう部分が見られたのが残念でした。しかし、旋律の受け渡しや対旋律のバランス等、基本的な事をしっかりと積み重ねてきているな、という音楽でした。弱奏のハーモニーも安定感抜群です。自由曲は先日九州で精華の演奏を聞いた、ルイ・ブージョワー。今年は全国的にこの作品を取り上げるバンドが多いようですね。非常に精度の高いアンサンブル力を誇る演奏でしたが、ソロ楽器等はこれからその完成度を増して行くのでしょう。前半のコラールも、更に重厚さと荘厳美のような付加価値が欲しいところです。しかし、合奏力の高さには今年も脱帽です。

続いて、代表になれなかった金賞バンドです。

おかやま山陽高等学校
去年と同じような楽器の配置でしたが、何かポリシーがあっての事なのでしょうか。個人的にはこの配置だとブレンド感がいまひとつのように感じますが、これも個性と言えば個性でしょうか。課題曲5番は、やや焦点が定まらず、アナリーゼ不足の感があったのが残念でした。自由曲は、最近よくマスランカ作品を取り上げているようですが、エッジの少ない楽曲により説得力を加味させる演奏力に毎度ながら関心させられます。

明誠学院高等学校
安定した演奏力を持ったバンドですが、ここ数年、ややサウンドが籠もってしまうのが問題かなと思っていましたが、今年もそれは克服できなかったようです。しかし、6/8の躍動感を非常に的確に再現したマーチでした。自由曲は、高いアンサンブル力を見せていましたが、低音楽器がもっと妖艶に謳ったり等、演出力にもう一工夫も二工夫も欲しかったところです。演奏とは演じて奏でることで、その演じる部分がやや淡白かな、という印象です。

修道高等学校
去年は、大きな音量を必死にだそうとする演奏ぶりが印象的でしたが、今年は、打って変わって音楽を演じる努力が随所に感じられる演奏でした。課題曲は、高い演奏力でこなしていましたが、北陵の演奏を聞いた後という事もあって、アナリーゼにやや不足部分が見られたのか残念でした。自由曲は、非常によく練られた好演。ここ数年のこの学校の演奏の中でも、トップクラスの音楽を演じていかたように感じました。何度も聞いてきた楽曲ながら、ある種の新鮮味を感じさせて頂きました。

鈴峯高等学校
課題曲2番は、非常に淡々と進んでいく感じで、細かい装飾音符や、旋律の浮き立たせ方などがないがしろにされていたのが残念でした。自由曲は、打って変わっての熱演。ひとつ間違えばただのうるさい管打楽器の連打になってしまうところですが、ギリギリのところで緊張感を損なわないプラハを演じきり、会場の空気を一変させるのに成功していました。課題曲の出来具合が非常に残念です。

智翠館高等学校
課題曲3番冒頭のパーカッションは、やや転び気味だったのが残念です。その後の展開も、やや乱雑な処理が管楽器打楽器ともに目立っていました。中間部も淡々と過ぎてしまった感じで、和と洋のコラボレーションを表現するには到っていなかったようです。自由曲のサロメも、冒頭からお祭騒ぎという感じで、楽曲に応じた音楽的な処理を望みたいところでしょう。流麗なオーボエを始め、管楽器の演奏力は高いものを持っているバンドです。

防府西高等学校
去年は広島での圧倒的な名演に、個人的に大きな感動を頂いたバンドで、今年も楽しみにしていました。課題曲4番は、ややバッギンクが弱く、6/8のリズムか不安定になっていたのが残念でした。また、主旋律に音の統一感があると、更に音楽が浮き立って聞こえてきた事でしょう。自由曲は、このバンドのサウンドには少し合っていないのかなという印象でしたが、高い演奏力と、アンサンブル力は心地よいものを感じました。終盤は勢い余ったのか、やや音楽が乱雑になってしまったようでした。

そのほか銀賞団体の中で印象に残ったのは・・・・

就実高等学校
非常にきらびやかな金管と重厚な木管、そして豊かな低音が印象的でしたが、課題曲自由曲を通して、ややバラけた感が見られたのか残念でした。テンポの揺れや、感情的な音楽の抑揚等がもっと欲しかったところです。しかし、朝2番ですでにこの演奏。この後どうレベルがヒートアップして行くのか・・・・という不思議な感覚に会場が包まれたのは事実です。

松江南高等学校
課題曲自由曲を通じて、バランスのいいサウンドが印象的でしたが、課題曲はやや早めで、6/8の躍動感に欠けていたのか残念でした。自由曲は、音楽が塊になって聞こえてくる部分が多々あり、さらなるアナリーゼが欲しいところう。しかし、非常に今後に期待が持てるバンドという印象でした。

新庄中学高等学校
数少ない課題曲1番を安定したサウンドとハーモニーで楽しませてくれました。自由曲は、作曲者の目の前での演奏になりましたが、音楽を聞かせる部分よりも、音を出す方に重点が置かれていたのが残念でした。十分に技量も音量のあるバンドなので、原点に戻って、心に迫る音楽作りを望みたいところです。

鳥取県立境高等学校
奏者が正面を向いて紹介の後、指揮者の方に向き直るのかと思いきや、フルートが正面を向いたままた演奏を始めたのに少々ビックリしました。中間部のサックスも正面を向いてしまった為、超横目で指揮者を見ていましたが、指揮をしっかりと見ながら演奏するというのが基本ではないかと思います。全体のサウンドは、重厚でしたが、やや内声部が無表情で、音楽が無機質な物になっていたのが残念でした。

その他、最後に演奏した太田高等学校は、課題曲にややほころびがあったものの、自由曲の素晴らしいアンサンブルが印象に残りました。
というわけで、今回は鳥取砂丘にも行けて素晴らしい演奏にもたくさん出会えるという、充実した2日間を過ごさせて頂きました。しかし、それにしても夏の鳥取は暑い!

2012年中国吹奏楽コンクール中学校の部

岡山駅から特急に乗り、鳥取へ。
中国吹奏楽コンクール中学校の部を、午後から聞くことが出来ました。
では、代表校と金賞団体の感想などを少しばかり。

出雲市立第一中学校
今年の課題曲1番は、大人のバンドでもなかなか安定感を持った演奏にお目にかかることが、この時点では出来ていなかったのですが、さすがに毎年圧倒的な安定感を誇る中学バンドてらではの解釈で、安心して音楽に聞き手を招き入れていたのが感動的でした。人数のせいか、やや音圧が例年ほどではなかった印象ですが、楽譜の再現力とハーモニーの安定感はさすがです。ソロ楽器はスタンディングで演奏していましたが、主旋律のひとつひとつを更に歌わせて欲しいなという印象でした。自由曲は、課題曲とは正反対に合奏力を聞かせるトゥーランドット。全体を通して、マイルドなサウンド音価久全体を支配していた感じで、シーンによっては、鋭角的な音を際立たせる等、サウンドのバリエーションか欲しいところです。中盤では、ピッコロか焦りすぎたのか、その逆なのか、珍しくアンサンブルが破綻しかけた部分も見られましたが、圧倒的なサウンドの安定感がそれを補っていました。全国大会では、更に大きな音楽に変貌していることを期待したいところです。

防府市立桑山中学校
課題曲3番は、打楽器の丁寧なアンサンブルからスタートして、楽曲の持つ和の世界と洋の世界のコラボレーションが、見事に演出された快演でした。中間部がテンポ感は維持したまま、歌心が加わると、音楽が更に大きく聞こえる事でしょう。自由曲は、チンギスハーン。こういう曲を普通に中学生が演奏する時代になったわけですね。ソロ楽器の演奏力も高く、ハーモニーの安定感も抜群で、楽曲の世界観を見事に再現した秀演でした。ただ時折、音を叩きつけるシーンがかいま見られ、音楽の流れを途切れさせていたのが気になりました。和楽器が加わった強奏が、その音圧を保ちつつも乱暴にならないような配慮が必要でしょう。サウンドコントラストもハッキリしていて、この日のバンドの中でも最高峰のものを持っていたという印象でした。

高松中学校
何度も全国大会に出場している名門ですね。非常に豊かな音量を持ったバンドですが、課題曲4番は全体的に旋律と伴奏部の動きがチグハグな印象でした。ハランスの問題だけではなく、6/8のリズムの感じ方がバラバラだったように見受けられました。自由曲は、中学の部の定番になって来た感のある、ア・ウィークエンド・イン・ニューヨーク。このバンドのきらびやかなサウンドがこの曲にマッチしていましたが、全体を通して、アンサンブルの構築不足という感じは否めませんでした。4ビートの感じ方にも、更なる追求が欲しかった感じです。

下松中学校
課題曲3番は、ややリズムが甘く、楽曲の持つ和の部分と洋の部分ノコラボレーションが収支曖昧になっていたのが残念でした。非常に円僧侶は高いバンドなので、アナリーゼ不足だったのが悔やまれます。中間部では、ハーモニーもソロ楽器の精度も安定していて、全体を通して、メリハリのついた音楽に仕上がっていました。自由曲の信長では、楽曲の持つ和の部分の聞かせ方が絶妙で、その世界観を的確に表現した秀演でした。課題曲におなじぐらいのクオリティがあればひょっとするとひょっとしたかも知れません。今後への期待大なバンドのひとつです。

平田中学校
課題曲3番の冒頭から豊かな音量を伴ったアンサンブルが心地よく響いてきました。ただ、やや音が開きすぎているかな、という印象でした。音楽的にも、どっしりした部分だけでなく、身軽に快走する部分も必要なのではないかと思います。そんな中で中間部の歌い方と音楽的な演出力は、この日の課題曲3番の中でも最も訴えるものがありました。それだけに、全体の音楽の描き方に勿体なさを感じました。自由曲も、非常に高い演奏力が印象的でしたが、全体的に音楽が巨大な置物のような印象で、もっとさまざまな動きが欲しかったところです。それにしてもホルンの圧倒的な存在感等、個々の楽器の演奏力の高さは秀逸でした。また、いくつかの奏者のピッチが微妙にズレていた感じもありましたが、このバンドのサウンドホールとの相性がやや悪かった部分もあったかも知れません。それにしても、あともう一息の画竜点睛があれば・・・・。惜しい演奏だったと思います。

岐陽中学校
全国大会にも何度か登場しているバンドですね。課題曲4番は、非常にスッキリとした音楽作りか印象的でした。か、6/8のリズムが打楽器を中心にやや焦点からずれているという印象で、旋律がスムースに流れていかなかったのが残念でした。自由曲は、前半部分がやや不安定で、旋律と伴奏のバランス等々、まだまだ研究の余地があったのではないかなという印象でしたが、後半にかけてのアンサンブル力はさすがの存在感を見せていました。

府中中学校
もともと海田中学校にいた先生が赴任してもう何年目になるでしょうか。バンドのサウンドと演奏力もかなり安定感を持ってきたようです。課題曲3番は高い演奏力で楽譜を再現していましたが、ややサウンドブレンド感がなく、音楽がチグハグになっていたのか残念でした。中間部のハーモニーもややカンテ尉官を欠いていたようです。が、全体の音楽作りのセンスにはさすがのものを感じました。自由曲はラッキードラゴンでしたが、中学生の体力では、音を吹き出すのに相当な負担がかかっているように見えました。体力に見合った選曲というのも、成長段階の中学生には必要なのではないでしょうか。もちろん演奏力そのものの高さはここでも光っていましたが。

そのほか、銀賞でしたが、トッカータとフーガニ短調の演奏に出会えるなんてのは、中国大会ならではでしょうか。少し前も桑山中学校が取り上げてましたが、時代を超えて演奏され続けながら、時代時代の解釈が新たに盛り込まれるのを新たに聞けるというのは、音楽の醍醐味です。演奏したのは、総社東中学校でしたが、重厚な響きを持った、個人の演奏力も高いバンドであることを印象付ける演奏でした。

というわけで、中国支部の代表校は、3出を達成した出雲市立第一中学校、3年ぶりの出場となった、桑山中学校、そして午前中の演奏団体で、2年連続の代表となった、郡中学校の3校に決まりました。

2012年九州吹奏楽コンクール高校の部

中学の部の翌日、これまた日差しが強い日曜日、九州吹奏楽コンクール高校の部を聞きに、サンパレスに行ってきました。
では、代表校を中心に感想を。

鹿児島情報高校
テレビへの登場等もあり、今やブランド化した感のあるバンドですが、そのブランドに甘える事なく、今年も緻密な音楽作りをしていました。中でも課題曲は主旋律が終始際立ったお手本のような演奏で、対旋律やバッキングのバランス等、絶妙なものを見せていました。やや、クラリネットの音色が終始マイルドだったのが気にはなりましたが・・・・。自由曲においても、楽譜に書かれている事を忠実にすべてのフレーズが埋もれる事なく、再現するのに成功していましたが、音楽的な高揚感が更にスケールアップすれば、鬼に金棒となる印象でしょうか。それにしても細かいフレーズの合わせ方には毎度ながら脱帽状態です。

精華女子高校
情報高校と同じように、今年はテレビ等への露出で、その活躍ぶりが一般社会にも(笑)浸透している精華女子校。ルイ・ブージョワーは2度目の挑戦になります。その前に課題曲、当然ながら非常にアナリーゼし尽くされた、立体的な音楽作りは、九州では他の追随を許さない域に達しているようです。そしてただ楽譜を再現するだけでなく、曲のタイトルも含めた情感をひとつひとつの音色に乗せているのが驚きの部分です。自由曲も2度目ながら、前回とは違ったフレーズを聞かせたり等、ランクアップした音楽力を見せていたのが印象的でした。全国大会に向けて更に安定度を増して行く事でしょうが、同時にオーディエンスを熱狂させる事も忘れないのが、このバンドの素晴らしさでしょう。

玉名女子高校
3出にリーチをかけていたこのバンドですが、課題曲自由曲を通じて、サウンドのカラーに変化が無いのが気になりました。特に課題曲4番において顕著で、トリオもただ音量を下げるというのではなく、表情を変えて違った場面を演出するというアプローチも必要でしょう。自由曲の復興は、一昨年ヤマハが披露し、去年フォロワーが生まれ、今年大爆発した楽曲。全国各地で聞かれ、それぞれにさまざまな解釈の演奏が繰り広げられていますが、この自由曲は、非常に安定してサウンドが印象的でした。弱奏においてもグラ付かないハーモニーは心地よさを感じさせます。が、ここでもサウンドのカラーがオーケストレーションに頼ってるかなという印象で、この辺りがこのバンドの全国における壁のひとつなのかも知れません。玉名女子高校はこれで3出達成です。

そのほか金賞バンドの中では、福岡工業大学附属城東高校が、持ち前の豊かな音量で課題曲4番を圧倒的な推進力で、自由曲の海を力技で轟かせました。課題曲冒頭の装飾音が聞かれなかったのが残念。
またこちらも九州常連の鹿児島県立松陽高校。課題曲3番は中間部のハーモニー等、やや不安定な部分が見られましたが、自由曲レクイエムは、ほかのバンドとは全く異なった世界観を、豊かな音楽性と共に響かせまていました。しかし、指揮者が交代しても、その音楽の質の高さを維持し続けている生徒達の取り組み姿勢には非常に頼もしいものを感じます。
そして、沖縄のコザ高校那覇高校は、指揮者が交代してサウンドや音楽作りが過渡期の状態。これからまたどんな新たな世界観を作ってくるのか、楽しみです。

そのほか、銀賞バンドの中にも、安定した弱奏のハーモニーが美しかった筑紫台高校、繊細ながらもダイナミックな音楽を作り上げていた鹿児島県立大島高校、極上のアンサンブルを聞かせていた福岡県立修猷館高校、独特の選曲を確実な演奏でいつも楽しませてくれる中村学園女子高校、和の世界観を圧倒的な音圧で轟かせた北九州市立高校等々、賞を超えて、感心と感動をもたらせてくれるバンドが多い、九州の高校のレベルの高さを誇るコンクールだったと思います。

2012年九州吹奏楽コンクール中学の部

快晴の中、恒例の(笑)九州吹奏楽コンクール中学の部を聞きに、福岡サンパレスに行きました。
代表校を中心に感想などを。

佐賀市立成章中学校
このところ全国への常連となっている学校。出演順1番でしたが、全体を通してクリアなサウンドと、よく整理された音楽が印象的でした。指揮者が交代して2年目だと思いますが、サウンドのバランスは、年々向上しているように見受けられました。ただ自由曲の楽曲が持つ世界観も影響したのか、もうひとつアピールする物に物足りなさを感じたのも事実で、全国大会までにどう新たな演出を施して来るのかが楽しみです。そうそう全国大会では午後のトリを努めるそう。朝一からトリへと、ジェットコースターのように順番が移動しますが、コンディションは問題なさそうです(笑)。

鹿児島市立谷山中学校
指揮者は変われど、九州大会にも全国大会にも何度も出場経験のある学校です。現在の指揮者になってから、サウンドのバランスと艶は九州の中学バンドの中でも抜きんでたものを持っています。そういう意味で今回の課題曲4番と自由曲のア・ウィークエンド・イン・ニューヨークは、このバンドのよい部分を最大限に引き出す選択だったようです。ドラマーの4ビートの刻みも心地よく、更に課題曲の6/8感をの精度をあげれば、いい結果が付いて来るかも知れません。それにしても、個々の奏者のサウンドの美しさは、頼もしい限りです。

姶良市重富中学校
この学校も、指揮者は変われど、九州大会に何度も登場し、全国経験もあるバンドです。今回の課題曲2番は非常に均整の取れた端正な音楽に仕上がっていました。特に後半、会場のキャパを超える強奏が続く中、一種の清涼剤のような響きを持って伝わってきました。自由曲の復興は、楽曲のオーケストレーションに引っ張られた感も見られましたが、その分まだまだ伸びしろを感じさせていたのも事実で、全国のステージではもう一回りも二回りもスケールアップした音楽に期待したいところです。そして淡々と難しいフレーズを奏でていた奏者たちにも拍手!
重富中学校の演奏を聞きながら思い起こしていたのは、2003年、故美座賢治先生率いる鹿児島市立吉野中学校のリバーダンス。まさに清涼剤のような演奏で全国の切符を手にしました。今回の重富中学校の指揮者は美座先生の後輩に当たるそう。先輩の影が見守る中、さまざまな思いでこの代表権獲得をかみしめている事でしょう。

というわけで代表3団体の名古屋での更なる名演を期待しましょう!

そのほか、金賞の中では、指揮者が交代した那覇市首里、伝統を守ろうと必死に棒を振る新しい指揮者の姿と、それに応えようとする生徒たちのコラボレーションに感動しました。

また銀賞団体では、大会を通じてもトップクラスの奏者の技量と、よく研究された自由曲の表現力を誇った鹿児島市立伊敷台中の演奏が、トリという事も手伝って、非常に印象的でした。
そのほか、安定した硬質なサウンドが自由曲のセント・アンソニーにマッチしていた天草市立本渡中、そして、やや後半は鳴らしすぎの印象もあったものの、自由曲ウィズ・ハート・アンド・ヴォイスの世界観を重厚に表現した福岡市立原中の演奏が強く印象に残りました。ここまでは金賞にしても全く問題ないのではないかと思いましたが、今年は出演順1番から代表バンドが出た事もあって、全体的に点数が抑えられてしまったようです。個人的には、機械的に点数で賞を区切るのには疑問符が残りますが・・・・。

というわけで、今年の中学の代表は、鹿児島2団体、佐賀1団体、鹿児島から2団体というのは、国分/吉野時代から久々という事になりますね。
暑い暑い1日、みなさんお疲れさまでした。

2012年東京都吹奏楽コンクール大学の部予選

今年は大学の部の予選も一般と同じく、練馬文化会館で行われました。そんな中で、代表校の感想をなどを。

立正大学
課題曲3番の冒頭、パーカッションの刻みが転び気味で、アンサンブルが不安定なのが気になりました。中間部では、白玉系によりハーモニーの安定度を望みたいところです。しかし、この部分の歌い方の演出はさすがですね。自由曲は「ひすい」と紹介されましたが「かわせみ」ですね。冒頭は安定感のあるハーモニーからスタートしますが、全体的にサウンドがこもりがちで、よりクリアな聞かせ方が望まれるところでしょう。

玉川大学
去年の演奏から最も大きな伸びを見せたのはこのバンドでしょうか。もやもや感のあったサウンドはクリアになり、ハーモニーも安定感を増したようです。課題曲5番はまだまだ音楽を把握しきれていないという感じでしたが、自由曲は非常にクリアなサウンドと解釈で、安定感のある音楽を聞かせていました。あとは、大学生ならではの音楽的な主張みたいなものが欲しいところでしょうか。

東海大学
去年の代表バンドですが、課題曲5番の解釈も大詰めまで来たという印象でしょうか。音楽を構成するひとつひとつの要素とその絡みがクリアに理解できるような演出がお見事でした。自由曲は今年の流行曲、紺碧の波濤。長生作品で続ける、という方法論を取るバンド、多いようですね。ただその分、12分間ひとつの世界観が続いていくという危険性もあり、そんな中でどうメリハリを付けるのか、手腕が問われるところです。

亜細亜大学
6/8の裏打ちや、リズム感をしっかりと把握した課題曲4番でした。が、管楽器と打楽器のバランスには、改善の余地が多々ありそうです。マーチというひとつのカテゴリーの中でも、楽器の音色にはさまざまな表情の変化が欲しいところです。自由曲のアパラチアの春は、冒頭部分やや緊張感に欠けていたのが残念。最初から春爛漫という印象て、音楽的なストーリーを構築できていなかったようです。細かいハーモニーの精度にも更に気をつかいたいところです。

駒澤大学
課題曲の冒頭はオーケストレーションが不完全なために、こうした残響の少ないホールでは、響きがストレートになってしまいます。その辺り、課題曲に対するアナリーゼを審査員はしっかりやってくれていたでしょうか(笑)。マーチそのものは、ハーモニーも安定し、細かいフレーズや3連符の再現力もさすがです。ややサウンドが硬質なようでしたが、本選は府中という事で、これだけクリアなサウンドの方が、音楽が鮮明になるかも知れません。自由曲は何年かぶりのローマの祭。バンダの正確さも全体の演奏力も高いのですが、このバンドとして更に上級のものを目指して欲しいところです。

創価大学
各地で鬼門となっている課題曲1番。これだけの大編成バンドだと音楽的にも安定感は増します。ただその分、全体を通してソロ以外の主旋律が埋もれがちだったのか残念でした。またソロ楽器にとっては、やはり鬼門の曲であることを露呈していました。自由曲は今年当たり年の交響的断章。上から打ちつけるような強奏と不自然な抑揚の付け方が非常に気になる断章でした。作品そのものが持つハーモニーの美しさや音楽的な面白さを個人的には聞かせてもらいたかったところですが。

中央大学
課題曲3番は、和式と洋式の融合でその違いとコラボレーションをどう表現して行くかが問われる作品ですが、このバンドの3番はその辺をよくアナリーゼした演奏のひとつだったと言えるでしょう。金管のハーモニーにはより安定度が求められるところですが、音楽としての完成度は高かったと思います。自由曲は、このバンドが持つ木管サウンドの美しさを存分に引き出した仕上がりを見せていました。自由曲では逆にトゥッティにおけるハーモニーに更にクリアさが欲しいところです。

そして銀賞ながら代表となったのが、帝京大学
課題曲3番は冒頭の打楽器のアンサンブルをはじめ、全体的にアンサンブルの精度を高めたいところでしょう。管楽器の奏法においても、もう一度原点に帰って、美しいサウンドを構築するための方法論を積み重ねて行きたいところです。そんな中で、音楽的なアプローチは、非常に好感が持てました。ここにサウンドが追いついて来た時、更にもう1段階バンドの力量がアップするのではないでしょうか。

以上が代表権をゲットしたわけですが、そのほか、美しく安定してハーモニーが心地よいドビュッシーを聞かせてくれた國學院大学や、木管サウンドが充実していた早稲田大学、音楽の楽しさを存分に表現していた、国士館大学、毎年独立独歩の自由曲を楽しませてくれる朝鮮大学などなど、個性的な音楽や演奏に今年も沢山触れることの出来た大学予選でした。
さてさて、本選は、今回の練馬とは真逆の残響MAXホール、府中の森。それぞれの演奏がどう聞こえてくるのか、楽しみにしていたいと思います。