東京都吹奏楽コンクール高等学校の部

例年は予選もつまみ聞きするのですが今年は本選一発聞きして来ました。
会場はおなじみ、府中の森芸術劇場

まずは代表団体のひとつ、東京都立片倉高等学校
プログラム順3番目に登場しましたが、課題曲の冒頭から、比較級ではなく他を寄せつける要素が見当たらないような王者の演奏でした。そもそも今年の課題曲3番は、最も聞き映えのするオーケストレーションをもった楽曲。このクラスの高校バンドが演奏すれば鬼に金棒です。それに加えて、音量や音圧も申し分なく、ひとつひとつの音質が確固たる芯を持っているので、超ライブなこのホールにおいても、隅々まで細かい音楽の動きが行き渡った事でしょう。自由曲は一見「またか」的な選曲ですが、いわゆる吹奏楽で聴くいつもの「役人」とは異なったセレクション。冒頭こそややぎこちなさがあったものの、おなじみの終盤は圧巻。ただ、指揮者の先生はパフォーマンスを抑えて、生徒たちの素晴らしい技量を目立たせてあげてもいいのではないかな、とも思いました。いずれにしても文句の無い代表です。

続いて、久々の全国大会出場となった、東海大学菅生高等学校
こちらも課題曲3番、ゴージャスなイントロからスタートして、持ち前の安定したバランスの良いサウンドで堅実な音楽を聞かせてくれました。やや随所でサウンドやアンサンブルにブレが見えたのは残念でしたが、全国大会までには修正して来る事でしょう。自由曲はマインドスケープ。今年、またまた各部門で流行り出した楽曲ですが、ここでも堅実なアンサンブルを見せていましたが、「今」ならではの独自の解釈が見えると、更に音楽的な面白さがアピールできるのではないてしょうか。終盤、やや作為的な音楽作りが、全国大会ではどう評価される気か、期待して見届けたいと思います。そう言えば、後半は菅生の生徒さん達のお隣での鑑賞になってしまいました。名古屋でのステージ期待しています(笑)。

次は、代表に漏れた金賞団体。まずは駒澤大学高等学校
おなじみのマーチシフトでスタートした課題曲2番でしたが、3番とは裏腹に2番は最もオーケストレーションの薄い楽曲。よほど緻密にサウンドや音楽を積み上げなければ、激戦区では厳しいかな・・・と思っていましたが、その心配が的中するマーチになっていました。特にチューバ等の低音部が、丸裸にされてしまう2番において、その流れをせき止める結果になってしまったようでした。他に比較する団体がいなかったのも痛い材料だったかも知れません。自由曲は、冒頭および終盤がやや安全運転気味で、この楽曲の華やかさをやや欠いていましたが、中盤の流れは、さすがに前年の全国金賞バンドならではのアンサンブルとゴージャスなサウンドでした。もう一歩アグレッシブになっても良かったのでは・・・・と思ってしまったのは、精華のルイブルを聞き過ぎた後遺症でしょうか(笑)。

そして、東京都立杉並高等学校
昨年あたりから、明らかにサウンド指向が木管偏重からバランスの取れたシンフォニックなサウンドに変わってきましたが、去年が過渡期だとしたら、今年は完成前夜という感じでしょうか。課題曲5番は安定したサウンドと管楽器の高い技量、そして緻密なアンサンブルを聞かせ、続く自由曲では圧倒的な木管のテクニックを魅せる演奏でした。ただそうした技量の高さに比べると、音楽的にオーディエンスにアピールする情感のようなものが不足していたかな、という感じです。それにしても、こうした東京の金賞バンドのそれぞれの個性を一度に体感できる本選は、全国大会以上の面白さを持っていると改めて思った次第です。

その他、銀賞だったものの、昭和高等学校は、特に自由曲における音楽的表現力に高い可能性を感じました。上位バンドと比べると、ややサウンドの芯が弱く、時折フレーズが曖昧に聞こえてしまうのが今後の修正点でしょうか。
八王子高等学校は、サウンドは金賞バンドに匹敵するものを持っていましたが、たとえばダフニスの冒頭、テンポ設定に対して、驚くほど指がまわる木管群に対して、旋律を奏でる低音楽器の流れが不明瞭だったり、全体的にバラつきの多い演奏になっていました。また、ダフニスを選ぶなら、短い課題曲を選んで、自由曲をぶつ切りにしない工夫も欲しかったところです。
明治大学明治高等学校は、切れのいいサウンドで課題曲1番を聞かせましたが、随所で細かいフレーズが不明瞭になってしまったのが残念でした。サウンドそのものは完成間近という感じの中、ソロ楽器の安定や音楽の流れの中でのサウンドの変化等、もう一段階上の仕上げまで頑張ってほしいところです。
関東第一高校は、重厚なサウンドと高い技術を持っていましたが、終始音楽が淡々と進んでいく感じで、音楽的なアナリーゼ、アプローチに今後期待したいところです。

東京大会は、全国の支部大会の中でも唯一、絶対的な相対評価を下す審査規定。紙一重のところで、代表が替わったり、賞の色が替わったりするという、生徒たちには過酷な大会です。しかし、その分、次なる指針が見えやすい場とも言えるでしょう。
そんなプレッシャーの中で、聞き応えのある音楽の数々を披露してくれた生徒さん達に心からの拍手を送りたいと思います。

2013年九州吹奏楽コンクール高等学校の部

連日の猛暑記録を行進する九州博多。
その博多のベイサイドにある福岡サパレスに、九州吹奏楽コンクール高等学校の部を聞きに行きました。
開場前から、海っぺりまで人の列列列。人気の高さが伺えます。

それでは当日聴いた演奏の中から、感想などを。まずは代表団体。

精華女子高等学校
はじけ飛ぶようなイントロからスタートしたマーチの4番。よどむことの無い躍動感と、各声部の輪郭がクッキリとした演奏でした。トリオの部分にもう少し繊細さが加わると、音楽が更に立体感を持つことでしょう。全国大会での最後の仕上がりが楽しみです。自由曲は、このバンドにしか出せないグルーブ感とドライブ感を持った演奏でした。随所で珍しいミスが散見されましたが、この段階で出たのを幸いとすべきでしょう。終演後は、この日一番長くて大きな拍手喝采を巻き起こしました。審査員も開場のオーディエンスも、満場一致で認めた九州代表という感じだったでしょうか。

鹿児島情報高等学校
ここ数年精華と共に九州の顔になりつつある、いやもうなってしまったと言ってもいいのがここ、鹿児島情報高校。そして精華とは正反対の音楽を演じます。課題曲2番の冒頭、やや不安を感じるものがありましたが、マーチに入ると、もはや独壇場。楽譜に忠実に、誠意のある音楽を紡いでいく、そんな冷静な演奏でした。自由曲は、pppからfffまでを幅広く使い、「高校生の段階で将来美しい音楽を奏でる為に習得すべき基礎」をしっかりと生徒たちに伝授している、そんな演奏だったと思います。また情報高校も珍しくハーモニーにブレを感じる箇所がありましたが、次の段階ではすべてクリアして来る事でしょう。

沖縄県立コザ高等学校
課題曲の冒頭を聴いた瞬間金賞を確信させるクリアなサウンドと音楽でした。弱奏においても強奏においても、サウンドやハーモニーがブレる事なく、適度な前進感を持ったマーチを披露していました。自由曲も、弱奏部が美しく、個々の楽器のサウンドが安定している事を物語っていました。ただ全体的に音楽が平面的で、音楽的な個性みたいなものが感じられなかったのは残念。サウンドや技術が伴った段階で、音楽を聞く人々にどう料理して伝えて行くのか・・・・そこまでのアプローチには至ってなかったようです。それは次の段階への宿題となるのでしょう。

続いて代表にはなれなかった金賞受賞校。
鹿児島県立松陽高等学校
これまでのこのバンドのイメージは高い技術を控えめに鳴らして、美しさをアピールする、というものだったように思いますが、今年の演奏は課題曲の冒頭から、客席に迫り来る音楽の波を感じさせるものでした。ただそのアプローチの中で、金管楽器の音色が本来の美しさを失っていたのは残念でした。しかし、問題意識がわかった今、次の段階に向けてこのバンドが大きく成長し成熟するのは早いだろうなと実感させる演奏でもありました。自由曲は、木管楽器の美しさを誇る名演。そういう美しい音楽という点では、九州の高校の中でも髄一のものを感じさせます。願わくば、九州にもこんなに美しい木管の響きを持ったバンドがあるという事を全国に向けて発信してほしかったところですが、それは来年への新たな課題となったようです。余りある繊細さに更に大胆なものが加わったとき、どんな音楽になるのか、そんな期待を持たせる今年の演奏でした。

さてさて、26校中、4校が銀賞という厳しい結果でしたが、銀賞バンドに見られた共通点をいくつか。
まずは、特にマーチの課題曲において、旋律が時折埋もれてしまう演奏だ多かったという事。対旋律とのバランスや、バンド全体の中でのバランス等、より繊細なアナリーゼとアプローチが求められます。また、特に強奏において、サウンドやハーモニーが破綻するバンドが殆どでした。また音楽が平面的なバンドが多く、なぜ複数の要素がその音楽にはあるのか、そのひとつひとつの要素をどのように登場させるのか、作曲者はどう登場させて欲しいと願っているのか、九州大会のようなレベルになると、そこまでのアプローチも必要なものになって来ます。そういう部分で、ここ数年で殆どのバンドが音楽的に退化してしまったような印象を受けたのも事実です。コンクールが終わり、また新たな世代が新たな時代を作って行く事になると思いますが、こうしたことも考えながら、音楽作りに励んで頂きたいなと思います。

2013年福岡県吹奏楽コンクール高等学校の部

鹿児島県大会が終わり、そのまま博多入りして、福岡サンパレスで行われた福岡県大会を聞きました。
代表団体の感想などを少し。

精華女子高等学校(藤重佳久)
よくもまあ朝一番のくじを引く学校です(笑)。しかし、朝一番という逆風はこのバンドには全く関係なく、クリアできらびやかなサウンドの安定したイントロからスタートしました。課題曲4番全般を通して、音楽を構成するひとつひとつの要素を巧みに組み合わせて、うねりのある音楽を作り上げていく手腕は見事です。自由曲のフェスティバル・ヴァリエーションは、このバンドの演奏で何度となく聞いてきましたが、常に最小限のミストーンを維持しながら、演奏する度に新たな解釈を聞かせるという、超高校生的バンドだと言っていいでしょう。九州大会ではどんな解釈を見せてくれるのか、お楽しみはこれからです。さてさて、このバンドが満点近くを取らなければ、その日の金賞は限りなく少なくなる・・・・というのが定説ですが・・・・。

福岡工業大学附属城東高等学校(武田邦彦)
非常に重量感のあるサウンドは健在です。ただ、例年に比べて、サウンドがやや乾燥しているというか、艶が感じられないのが気になりました。マーチでは、音楽を構成する要素を過不足なく聞かせるのに成功していましたが、場面ごとの受け渡しがいまひとつて、音楽の流れが止まってしまう部分があったのか残念でした。自由曲は、このバンドが定期演奏会などでたびたび委嘱している樽屋雅徳作品、新曲です。このバンドのきらびやかなサウンドによくマッチしたオーケストレーションが心地よいのですが、ハーモニーのバランス等、まだまだ細かい詰めが足りなかったかなという印象です。終盤もよりクリアな音楽作りか求められるところでしょう。

北九州市立高等学校
確か、以前は戸畑商業高等学校だったと思いますが、その当時から、このバンドのクリアで、明るいサウンドは私の好みのサウンドだったのを、課題曲を聞きながら思い出しました(笑)。課題曲5番は、複雑な音楽の要素をひとつひとつ丁寧に紡いでいましたが、それぞれの関係性を明確に音楽にするまでには至っていませんでした。まだまだアナリーゼの余地はありそうです。自由曲は一転して、このバンドのクリアなサウンドにマッチした楽曲とのコラボレーションに引き込まれました。ソロ楽器の音色も艶やかで、音楽の流れもスムースな秀演だったと思います。更に中低域のサウンドが充実すると、音楽に深みが出てくるのではないでしょうか。

福岡県立城南高等学校
ややぎこちないイントロからスタートしたマーチ4番、音楽の展開がやや前のめり気味だったようで、個々の楽器にも、より丁寧な発音が望まれるところです。またトリオの部分なども、音色に変化が乏しく、全体を通して平坦なマーチになっていたのが残念でした。しかし、さすがにキャリアの長いバンド、奏者の技量の高さを維持し続けているのはさすがです。自由曲は、去年の余波で今年もあちこちで演奏されている復興。シッカリと譜面を再現している誠実な音楽という感じでしたが、このバンドならではの色を付けられればな、というところでしょうか。細かいアンサンブルにもより緻密さが欲しいところです。

福岡県立修猷館高等学校
ダイナミックレンジの広いサウンドでスタートしたマーチ4番でしたが、ややせせこましく、マーチのリズムが随所で乱れ気味になってしまっていたのが残念でした。また、マーチというカテゴリーの中でも、旋律に歌心が欲しいところです。自由曲は、ラッキードラゴン。冒頭の亜空間的世界観をよく作り出していましたが、強奏になると、サウンドがストレートになるきらいがあり、その辺りは、より艶やかなffを求めたいところでしょうか。しかし、全体を通して、ダイナミックレンジの広い、重厚なサウンドを聞かせていたと思います。

門司学園高等学校
このバンドはサウンドにややクリアさが欠けるためか、課題曲5番が全体を通して、音楽の骨組みが伝わらない演奏になっていたようです。更なるアナリーゼが求められるところでしょう。自由曲のアルプスの詩は、制限時間のためか、ややせせこましいオープニングでしたが、効果音や持続音とホルンの対話が美しく、楽曲の世界観を巧みに再現していました。その後も、全体的に急ぎ気味なアルプスでしたが、果敢に付いていく奏者たちに拍手です。終盤の泣きの旋律は、更に感動的に歌って欲しかったところですが・・・・。

大牟田高等学校
課題曲2番のオープニングはやや濁りがちなハーモニーが気になりましたが、マーチに入ると、躍動感を持ったリズム展開が心地よかったと思います。ただ全体を通して、バランスがやや悪く、音楽が鮮明に届いてこなかったのが残念です。自由曲は、このバンドらしい選択・・・・でしょうか。まさに疾風怒濤のように駆け抜けて行く・・・・といった印象の音楽作りでした。ダイナミックな部分に対して、繊細な部分はより繊細に、場面転換のクリアな音楽作りを目指してほしいところです。

というわけで、以上の7団体が今年の福岡県代表となりました。予想通り、金賞が少ない結果になってまいましたね。
さて、ほとんどのバンドが最大の55人を擁して演奏したのに対して、今回代表に漏れた中で3団体が、やや少ない人数でのステージになりました。

福岡県立小倉高等学校
課題曲5番は、解釈がクリアで、個々の演奏技術も高い音楽に仕上げていました。場面ごとのサウンドの変化作りも見事で、人数の少なさを感じさせない秀演だったと思います。自由曲は、長生作品。このバンドはハーモニーが美しく、響きも安定しているためか、常に音楽の流れがスムースで、強奏においても、心地よく音楽に接する事が出来るのが特徴でしょう。この自由曲においても終始安定したハーモニーとクリアな旋律のコラボレーションが、音楽の質感を高めていたようでした。

福岡第一高等学校
このバンドも40名という人数での演奏。課題曲2番の冒頭は、やや音がブツ切れになっていましたが、ハーモニーの安定感が心地よさを保っていました。全体を通して、旋律を非常に大切にする演奏でしたが、更にマーチのリズムが安定すると、躍動感が得られたでしょうか。続く自由曲は、今年の流行り曲、パガニーニ・ロスト・ウインド。これも長生作品ですね。ここでも終始安定したハーモニーが素晴らしく、ハイトーンの当たりの心地良さ等、個々の技量の高さも相まって、終盤は感動的な音楽的展開でオーディエンスを魅了していました。

飯塚高等学校
ここも42名という人数での登場。人数を感じさせないダイナミックなイントロから、続く木管の旋律の美しさは、このバンドならではのものでしょう。マーチのリズムも安定して、よく壺を抑えた秀演でした。トリオの展開やバランスも絶妙。欲を言えば、金管楽器に艶が加わると、音楽が更に深みを持つのではないでしょうか。自由曲は、この日2団体目となる三つのジャポニスム。冒頭は、木管和楽器を感じさせるなど、楽曲の世界観を的確に表現していたのが印象的でした。終始安定したハーモニーも音楽を心地よい世界へと導いていました。

というわけで、世の中は少子化となり、定員以下で演奏する団体も今後ますます増えて行くでしょうが、コンクールも55名のサウンドを前提としたものではなく、その人数なりのサウンドでの評価を的確に行って行くような方向性を示して行く事も必要なのではないかな・・・・と思った大会でした。

2013年鹿児島県吹奏楽コンクール高校の部/中学の部代表選考会

この週末、各地の吹奏楽コンクール県大会をハシゴして来ました。
まずは鹿児島県大会。高等学校の部。
今年は推薦団体が4団体に増えた事で、より全体の演奏力が底上げされたいたような気がします。
まずは代表団体の感想など。

鹿児島県立大島高等学校(立石純也)
ここ数年コンスタントに代表となっている学校です。唯一の課題曲5番を選曲。冒頭から、音像がクリアな整理された音楽を展開して行きます。サックス奏者の流麗な音色とバンド全体の鋭角的なサウンドとのコントラストが見事なスタートで、全体を通してよくアナリーゼされた質の高い音楽でした。欲を言えば、場面に応じたサウンドの変化が加わると音楽がより立体的に響いて来るのではないでしょうか。自由曲は、お馴染みの青い水平線。高校生としては余裕で演奏できる作品となって来たので、より新たな解釈が聞きたかった所ですが、オーソドックスな展開で、課題曲の延長的な錯覚を覚えたのも事実でした。終盤も更に、「歌」を感じる展開を期待したい所です。

鹿児島県立松陽高等学校(濱田淳一)
多分長らくマーチを選択していなかったと想われる松陽高校。今年は久々にマーチ4番を選択。冒頭からゴージャスなサウンドでグランドマーチを響かせていました。それぞれの音楽的な要素の粒立ちが良く、それらを立体的に組み立ててきた音楽作りはお見事です。更に自然な音楽的な抑揚感が加わると、マーチ全体に躍動感か備わって来る事でしょう。自由曲は、こちらもまさかの(笑)樽屋作品。冒頭は映画のサウンドトラックを想わせるような響きで、持ち前の美しい音世界を演出していましたが、難易度からして、ノーミスで行って欲しいところでしょう。随所で観られた発音ミス等、まだまだ仕上げの余地はありそうです。全体を通して質の高い音楽作りをしていましたが、クライマックスに向けては、更なる工夫が必要かも知れません。

鹿児島情報高等学校(屋比久勲)
課題曲2番冒頭のファンファーレ、針に糸を通すようなきめの細かい音楽作りはお見事です。その後の展開もマーチではなく、ザ・行進曲という感じで、オーソドックスに音楽を展開して行く潔さを感じました。ただ、若干のつまずきが何カ所か見られたのも事実で、この辺は次に向けて修正されて行く事でしょう。自由曲は、おなじみの幻想交響曲。楽譜に非常に忠実な再現力で、ブラスサウンドの発音も潔く、音楽がストレートにオーディエンスに伝わって来るのが、屋比久サウンドの骨頂。難しい事をやっているのかいないのか、わからないままに、音楽にいつの間にか包まれている、そんな12分間でした。

鹿児島県立甲南高等学校(永井哲)
昨年の代表の顔ぶれにもうひとつ加わったのが、甲南高校でした。ここ数年、めきめきとその音楽力をアップして、遂に代表権をゲットした、という感じでしょうか。課題曲のマーチは、サウンドがやや暗めなせいか、全体的に前進感や躍動感が不足していたようで、自由曲とは正反対のサウンドを課題曲に投入して欲しいところ。音楽作りや流れそのものはスムースでしたが、随所で見られた発音ミスは、次の段階では限りなくゼロに近づけて欲しいところです。自由曲は、全体的に音楽が冗漫で、ポイントがぼやけてしまう部分が見られたのが残念でした。ピッチや発音の精度を更に高めて欲しいところです。しかし、激戦となった今年の鹿児島県の高校の部を代表するに相応しい、熱演でした。

というわけでこの4団体が2013年の代表となったわけですか、公立高校の指揮者は、実は松陽高校の2代目、3代目、そして5代目の指揮者になりますね。代表団体発表の様子を見ながら私は、第4代目の指揮者の事を個人的に思い起こしておりました。

さて、この他今年は県立高校勢の台頭が目立った高校の部でもありました。
そんな中で、鹿児島県立工業高校は、課題曲自由曲共に、指揮者と一体化した展開が素晴らしく、会場も感動の渦に巻き込んでいました。ただ、全体を通して楽器のサウンドがややストレートすぎるきらいかあり、個々の楽器のサウンドをいかに練っていくかが、今後のポイントのひとつになりそうです。
鹿児島県立国分高校は、全体的な音楽の流れを指揮者と生徒が一体となって作り上げているのがよく伝わる演奏でした。ただそれに伴う技術やサウンドの持続力がやや不足しているようで、その辺りの強化が今後のポイントになるでしょう。
鹿児島中央高校は、課題曲のマーチの流れが自然で、全体を通して心地よい音楽を作り上げていました。が、自由曲がややアナリーゼ不足で、本来の音楽を演じきれなかったのが残念でした。
2日目の武岡台高等学校は、以前に聞いた時よりも、抜群にハーモニーが安定したサウンドになっていました。自由曲はまだまだ仕上げの余地がある演奏でしたが、今後が非常に楽しみです。
鹿屋高等学校は、ここ数年、質の高い音楽を聞かせてくれたのを覚えています。個人的にもその成長ぶり今年最も注目していた学校です。自由曲でのソロ楽器の質の高さ等、極上の音楽を作り上げていましたが、本番でのミスがやや多かったのが非常に残念でした。しかし、代表団体と遜色ないサウンドと音楽作りに頼もしさを感じました。
そして、伊集院高等学校は、マーチの流れが秀逸でした。サウンド全体のバランスも良く、この学校のここ数年の演奏の中でも、秀逸のものだったと思います。この流れが自由曲の最後まで届くように、次なるチャレンジと修練に向かってほしいところです。
そして、奄美高等学校、今回は残念ながら演奏を聞けなかったのですが、昨年も高い評価を得ていたようで、島嶼部の新たな勢力として、こちらも今後の期待大、というところでしょうか。

というわけで、鹿児島県代表の4校、九州大会でも、その美しく壮大な響きを轟かせて欲しいものです!

さて、高等学校の代表団体の発表の後、今年からスタートした新たな試み、中学校の代表選考会が行われました。その感想も簡単に。
まずは、代表団体から。

鹿児島市立桜丘中学校(坂下武巳)
指揮者が交代して1年目。これまでのサウンドと新たな指揮者の感性のマッチングが見事で、鹿児島の中学校ではこれまでに無かったような、ハリと艶のあるサウンドにビックリしました(笑)。課題曲のマーチは、重厚なサウンドのイントロからスタート、旋律がクッキリとした明解で明快な音楽を作り上げていました。やや随所でマーチのリズムが不安定になる部分は今後に向けて修正したい所です。自由曲は無名の新曲でしたが、冒頭から、音楽が明瞭で、中盤の泣きのメロディ、そして終盤の畳みかけるような展開まで、圧巻のストーリーを作り上げていました。就任から半年も立たず、ここまで仕上げてくるとは、恐るべしです。

鹿児島市立谷山中学校(岩井田万里子)
昨年は全国大会に出場したバンドですが、課題曲の冒頭からサウンドの線が細く、続くマーチのリズムも不安定になっていました。また、音楽全体がステージ上で解決している感じで、楽曲そのもののアナリーゼの余地も、まだまだありそうです。自由曲のアルプスの詩。冒頭のホルン、ややピッチが不安定なのが気になりました。相方のホルン??とのバランスも更に考えたいところ。その後の展開は、いつもの谷山節を取り戻したようでしたが、サンパレスに向けて、一皮も二皮もむける事が出来るか・・・・期待していましょう。いや、期待しています(笑)。

鹿児島市立鴨池中学校(西村美緒)
33名という人数での代表獲得はお見事です。課題曲冒頭ファンファーレは、更に精度を高めてほしいところ。その後のチューバの発音も明確に。このバンドは全体を通して明るく艶のあるサウンドを個々の楽器が持っているのが強みでしょうか。その分、マーチのリズムもしっかりと捉えるようになると、更に躍動感が増していくはずです。自由曲は、クリアなサウンドのハーモニーが美しく響いていましたが、時折ピッチが不安定になってしまう部分が見受けられました。が、全体を通して、いわゆる中学生らしい溌剌さが頼もしかったと思います。

というわけで、以上の3団体が今年の鹿児島県中学の部の代表となりました。
その他、代表にはなれませんでしたが、去年全国大会にまで駒を進めた、姶良市重富中学校は、課題曲の出来が素晴らしかったと思います。サウンドもクリアで、個々の奏者の技量も高いと見受けました。
また、鹿児島市立武岡台中学校。よく練られたサウンドで、安定したマーチを聞かせていましたが、ややクラリネットサウンドが脆弱だったでしょうか。しかし、よくアナリーゼされた課題曲でした。自由曲も楽曲の世界観を見事に再現した秀演でした。
そして、鹿児島市立紫原中学校は、重厚なサウンドで、安定したマーチと、自由曲を聞かせていました。個々の奏者の技量も高い秀演だったと思いますが、時折、特に終盤見られたハーモニーの濁りが残念でした。

というわけで、今年から始まった代表選考会。一度にレベルの拮抗した音楽を聞けるというわけで、もっと多くのお客さんに足を運んでもらいたいというのが正直な感想です。
それにしてもこの代表選考会だけで、全国大会経験指揮者が、4人もいるとは、鹿児島の中学も凄いなあと、聞きながら感慨深く想ったものでした。

TAD W.S.と早稲田吹奏楽団の演奏会

2つの吹奏楽団の演奏会をハシゴして来ました。
まずは、王子の北とぴあで行われたTADウインドシンフォニーニューイヤーコンサート

王寺駅について「すいません、きたとぴあってどっち方面ですか」と尋ねたら、一瞬の沈黙があって、「あ、ほくとぴあですね」。
というわけで、北とぴあと書いて、ほくとぴあと読むのだそうです(笑)。
さてさて、本題。以前からトランペットのメンバーに友人がいるので誘われていたのですが、いつも間近に日程を知らされたので、なかなか行けず、今回は、夕方に行く公演に間に合いそうという事で、まずはこちらに足を運びました。
プログラムは、
【第1部】
クレセント・ムーン/ヤン・ヴァン=デル=ロースト
冬物語/フィリップ・スパーク
古いアメリカ舞曲による組曲/ロバート・ラッセル・ベネット
【第2部】
フライト/クロード・T・スミス
ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス/デーヴィッド・R・ギリングハム
クラウン・インペリアル/ウィリアム・ウォルトン

というラインナップ。ローストやスパーク、スミスの作品は、指揮者の鈴木孝佳氏にはストライクの作品でしょう。
それにしても、演奏がスタートすると同時に、サウンドがまさに一塊になって客席に飛んでくるのが圧巻。またひとりひとりのサウンドが骨太で、それらがピタリと足を揃えて融合されているので、倍音がハンパじゃ無かったですね。これだけ倍音があると、聞く場所によっても、融合された響きの違いを楽しむことが出来るのではないてしょうか。
また鈴木氏のアナリーゼも素晴らしく、あちこちでよく耳にするウィズ・ハート・アンド・ヴォイスの中盤あたりはこれまでに聞こえてこなかった音の重なりが体験出来て、極上のサウンドに包まれる幸せを感じました。各楽器のバランスも素晴らしく、楽譜に書かれているひとつひとつの要素が過不足なく聞こえ、そんな中でも旋律をしっかりと浮き立たせているという、音楽の大切な要素をいくつもクリアした完成度の高さでした。
本編最後のクラウン・インペリアルの後半は、凄まじい低音楽器の融合サウンドが会場を支配していました。
更にアグレッシブなプログラムでまた聞きたい、何度でも聞きたいサウンドです。
アンコールは、グリーン・スリーブスのニューアレンジと、ジェイガー作曲、ツール・ド・フォースでした。

さ、アンコールが終わると同時に王子を後にして、中野に向かい、中野ゼロボールで行われた早稲田吹奏楽定期演奏会に行きました。
去年のコンクール職場一般の部東京予選で聞いて以来、必ず演奏会に行こうと思っていたバンドのひとつです。
プログラムは、
第一部
1.空中都市「マチュピチュ」〜隠された太陽神殿の謎〜(八木澤教司)
2.オクトーバー(E.ウィテカー)
3.ゴールド・ラッシュ(高橋伸哉)
4.シンフォニエッタ第2番「祈りの鐘」(福島弘和)
第二部
Special Stage
5.ロスト・ムーン〜マン・オン・ザ・ムーン〜エピソード2〜(清水大輔
第三部
6.「トリトン」全曲版(長生淳
アンコール
陽はまた昇る(P.スパーク)

という気合の入った内容。
演奏も勿論気合は充分で、中低音域が充実したサウンドと共に、安定した音楽を展開していました。
特に第二部は、ナレーションとスライドを使い、アポロ13号の悲運ながらも地球帰還まで英知を結集したNASAの人々の活躍ぶりを声のドラマ仕立てで再現しながらの演奏。
続く第三部は、トリトンの全曲版と、アンコールに、311への思いを作曲家のスパーク氏がセルフ・アレンジという形で表現した「陽はまた昇る」へと、非常に骨太なメッセージを持ったコンサートでした。その企画力と実行力に拍手を送りたいと思います。
そんな中で、気になった部分もちらほら(笑)。まずは、大所帯での演奏という事で、ややピッチに不安が残るパートやメンバーがちらりほらり。今回のステージでは、人数の圧力でそれを凌駕していましたが、コンクール等の比較評価になると、やはりマイナス点になってしまうのは否めず、少しの揺らぎも許さないという高い目標で、楽曲に対峙するという姿勢を維持してもらいたいところです。勿論全体としての音楽そのものには揺らぎは必要ですが(笑)。
また、パートの中で、同じをフレーズを奏でる奏者同士にまだまだバラツキがあるようで、同じ音量で旋律を吹いても、その旋律が浮き立たないという場面がちらりほらり。ハーモニーの安定もさることながら、旋律も本当に注意をしないと、微妙なズレや揺れには気づかないもの。そういう部分でのモチベーションアップも図って、それを克服した時に感じる、ひとつの音楽を複数の人数奏でる事の喜びの絶頂点を味わってもらいたいものです。
あと、第二部の演出は素晴らしかったのですが、残念ながら私の席では、ナレーションがほとんど聞こえませんでした。まあアポロ13のストーリーは知っていたので大体どんなことを言ってるのかは想像付きましたが(笑)。リハーサル時にバランスを緻密に取るか、或いは、スライドにセリフ(ダイジェストでも)を書くか、やって欲しかった感も。
さてさて、内容の濃いプログラムの中でも、第三部の「トリトン」の集中力は素晴らしかったですね。今年は自由曲をここいら辺りに持ってくるのでしょうか(笑)。全体のサウンド的には、ダイナミックレンジのバランスが非常にいいのですか、今後の課題は高音楽器の音楽のシーンによるサウンドの変化と、演奏力の確実性のアップでしょうか。腹筋をしっかりと使った骨太ながらも繊細なサウンドを目指して欲しいところです。また、速いフレーズには、とことん正確さを求めて!
そういう意味で、アンコールの「陽はまた昇る」の演奏には非常な感銘を受けました。旋律がややピッチに不安を感じたのだけが残念でしたが、落ち着いたハーモニーの受け渡しが素晴らしく、また指揮者の音楽の唄い方にも好感が持てる演奏で、スパーク氏のメッセージは、解説は無くともしっかりと聴衆のひとりひとりに伝わった事でしょう。演奏後、おそらくこの演奏会で引退するであろうメンバーのやり切った感のある表情が、この演奏会の成功を物語っていたと思います。
終演後は、演奏会の余韻を雑踏に邪魔されたくなく、中野駅ではなく、東中野駅まで住宅街の静寂と音楽の余韻に浸りながら歩きました(笑)。

駒澤大学吹奏楽部第49回定期演奏会

年末の3連休、色々なバンドの定期演奏会を聞きました。一日目は、駒澤大学吹奏楽部。

会場は昭和女子大学人見記念講堂。プログラムは次の通りです。
第一部(指揮:汐澤安彦)
序曲「春の猟犬」(A.リード)
組曲「仮面舞踏会」より、ワルツ/ノクターンマズルカ/ロマンス/ギャロップ
星条旗よ永遠なれ(アンコール)
第二部(指揮:暮林直樹)
パガニーニの主題による幻想変奏曲(J.バーンズ)
交響詩「ローマの祭」より(O.レスピーギ
アンコール(指揮:池上政人)
エル・カミーノ・レアル(A.リード)
ボレロ(M.ラヴェル岩井直溥

まずは1曲目の春の猟犬の冒頭から、凄まじい駒澤サウンドが炸裂。そのアンサンブルの確かさと、リズム感の素晴らしさ。楽曲のグルーヴ感を研究し尽くした再現力はお見事です。
また、この年末年始に行われた日本のトップクラスの大学の演奏会で、凡ミス等が目立った中、ソロ奏者のミスが全ての楽曲の中で殆ど無いというのも、駒澤クォリティなのでしょう。
第一部は、おなじみの汐澤氏による指揮のステージ。アルフレッド・リードの作品は、駒澤サウンドによく合いますね。前後のアグレッシブな展開と中間部の美しいハーモニーとソロ楽器の旋律との対比が極上の世界観を演出していました。
仮面舞踏会も確実な精度の高い演奏力で、安心して音楽を美を委ねることが出来ました。ただ、ところどころで、中低音域の金管楽器が無神経な破裂音を出していたのが、やや興ざめだったでしょうか。
さて、続く第二部は、今年のコンクールの指揮者との組み合わせ。
パガニーニは無難に演奏をこなしてはいましたが、シーンによる音楽の変化も欲しかったところ。淡々とし過ぎていたかなという印象でした。
今年の自由曲だったローマの祭りは、コンクール当時よりも更に精度があがり、アグレッシブな中にも、安定したハーモニーとグルーブ感を持った、好演でした。指揮者と奏者の息を合わせるのはまだまだこれからなのでしょうが、次なるアプローチに期待したいところです。それにしても、本当に細かいフレーズまで完璧に再現する奏者たちの技術力演奏力には脱帽。聞く側のアドレナリンが前回かつ満開となるローマの祭を聞かせてくれました。
そしてアンコール。確か、プログラムには書かれていなかったので、演奏が始まるまでわからなかったのですが、なんと、池上氏を迎えてのエル・カミーノ・レアル。もはやアンコールというよりは第三部という感じですね。にしても、本編を二部終えて、アンコールでも決して落ちない集中力とアグレッシブ度の高さは圧巻。もうイントロの最初の一音でヤラれてしまった感じです。コーラスも入った中間部のハーモニーや旋律も麗しく、後半も全く息切れなど感じさせない、疾走感に溢れたエル・カミでした。
そしてラストは、岩井氏アレンジのホップス系ボレロ。ここでもソロ奏者の完成度は圧巻で、多分アマチュアの大学生のステージでは、ここまで完璧なボレロは聞いたことないかも知れません。というわけで凄まじいまでの集中力の高さと完成度の高さを誇る、コスパの非常に高いコンサートでした。

2012年東京都吹奏楽コンクール・高校の部

まだまだ残暑厳しい中、東京都吹奏楽コンクール、高校の部を聞きに、三軒茶屋に行ってきました。
例年ならば普門館での開催なのですが、耐震強度に引っ掛かり、今年からしばらくは、それ以外の場所での開催になってしまいました。
今年は、常連の片倉高校がお休みの中、代表団体が3つに増えましたが、東京地区の激戦に変わりはありませんでした。
では代表団体を中心に感想などを。

東海大学付属高輪台高等学校
後半の部のトップに演奏したのがこのバンドでしたが、さすが東京代表常連校、休憩後の空気を一気に変えましたね。非常に締まりのあるサウンドで、スッキリ整然と整えられた音楽作りは例年通りでした。そんな中で、課題曲3番の中間部などは、もっと表情が変わってもいいかなという印象だったのと、ハーモニーを奏でる楽器の一部にピッチが不安定な存在が見られていたのが少々残念でしたが、後半のたたみかけるような展開とアンサンブルの正確さはさすがです。自由曲でも、立体的な音楽作りと絶妙なアンサンブルの展開は例年通りでしたが、ホルンを中心にミスを連発していたのが少々驚きでした。勿論、次のステージでは最高の状態の音楽を楽しませてくれる事てしょう。

駒澤大学高等学校
ステージをいっぱいに使ったセッティングが鮮やかでしたが、課題曲4番のマーチではこの広がり過ぎた配置がマイナスになったのか、随所でアンサンブルに乱れを生じていたのが残念でした。特に序盤のスネアはテンポを間違えたかというくらいのズレを生じさせていましたが、トリオ以降持ち直したのが幸いでした。この曲とバンドのサウンドのコラボレーションにおける最適なテンポ設定を探る事が今後のキーポイントでしょう。一方自由曲はこの配置が非常に音楽にマッチしていて、ダイナミックレンジの広いサウンドによるアクロバティックな音楽展開が見事でした。ハルモニアの美しいハーモニーの推移、ファンファーレ風の場面におけるきらびやかで圧倒的な音圧を誇る腰のあるサウンド、終盤の音楽的高揚感の演出まで、この日圧巻の自由曲だったと思います。

八王子高等学校
まずは、去年のまさかの予選止まりからの華麗なる脱皮に拍手です。課題曲5番は、演奏力の高さを見せていましたが、まだまだ音楽の展開が曖昧で、構築に迷いがあるような印象でした。ひとつひとつの要素をどう組み合わせ、音楽の流れに昇華させて行くか、次のステージに向けての模索はもう始まっている頃でしょうか。指揮者自身のアレンジにようるローマの祭は、バンダのサウンド等がストレート過ぎて、音楽がやや平面的なものになっていたのが残念でしたが、奏者と指揮者の思いが一体となった情熱と躍動感溢れる音楽が圧巻でした。後半の高い音圧の中でも、スッキリと音のラインが見られる等、このバンドのために書かれたスコアを冷静ながらも熱い思いで再現していたのに脱帽です。

そのほか、代表にはなれませんでしたが、印象に残ったバンドについて。

東海大学菅生高等学校金賞
トップバッターながら、高い演奏力を誇った課題曲3番でした。やや旋律が不明瞭な部分が見られたり、細かいアンサンブルの乱れがあったのが残念でしたが、唄い込みも充分で本選に出続けるバンドの底力を見せられたようでした。自由曲も安定したハーモニーと、高い演奏力が光っていましたが、更に何か訴えかける音楽的な主張が欲しかったかな、という印象でした。しかし、代表団体肉薄する安定した音楽を展開していたと思います。

都立杉並高等学校銀賞
かつては木管中心の流麗なサウンドを誇ったバンドでしたが、昨今は金管とのバランスの強化が見られるようになった印象があります。課題曲4番は、6/8のリズムがやや不安定で、道半ばという印象だったのが残念でした。行進曲ではない課題曲を選択するという方法論も、このバンドのサウンドを考えるとアリなのではないかなと思います。自由曲は邦人作品でしたが、音の処理が乱雑になる部分が散見されたのが残念でした。全体的に、バンドの方向性にやや迷いが生じているように見受けられました。

明治大学明治高等学校
課題曲2番の展開が非常に好印象でした。冒頭のファンファーレはなかなかコレというバランス取りに遭遇した事がなかった2012年でしたが、終盤に来てやっと出会えた名演という感じでしょうか。全体を通して、細かい3連符や、これまでになかなか聞こえてこなかった細かいフレーズ等も一気に耳に飛び込んできた感じで、安定したハーモニーや演奏力の高さも秀逸だったと思います。そんな中て、細かい旋律の動きに一体感が生まれると、更に音楽に生命力が備わった事でしょう。一方の自由曲は、このバンドにはやや合わないのでは、という印象で、素晴らしかった課題曲の再現を誇った演奏力が生かしきれなかったかも知れません。しかし、来年に向けて最も期待したいバンドのひとつです。

そのほか、古豪の女子高校、新参の都立高校などなど、個性溢れる音楽の数々を堪能出来た、東京都大会高校の部でした。
また、1日で中学の部高校の部を初めての会場で運営した東京都吹奏楽連盟のスタッフにも感謝したいと思います。
久々に代表に返り咲いた八王子高校、高校の部前半のトリをつとめる高輪台高校、そして全国大会の大トリとなる駒澤大学高校、弾けんばかりの音楽を名古屋の会場で轟かせて来てほしいと思います。