2004年鹿児島県吹奏楽コンクール中学校の部代表選考会

去年から、中学の部は、代表選考会を行っています。今年も予選で選ばれた11校の競演が行われました。
では、代表校の感想などを。

鹿児島市立桜丘中学校
指揮者は九州大会にも何度も出場し、全国大会の出場経験も持つベテランです。課題曲2番は、バランスの良いイントロからスタートしますが、その後のトランペットによるテーマがもっと伸びやかに響けば、更にマーチに輝きが増すのではないでしょうか。また同じパターンが続くときの2度目の演出をどう施して聞かせるか、その辺も工夫も求めたいところです。トリオ後、若干テンポやリズムにブレが見られましたが、最後まで前進して行く気持ちを持ち続けてほしいところです。自由曲は、予選ではかなり苦戦していましたが、この日までの進歩の速さに、中学生の成長のスピードを実感いした次第です。ただ、ここでもffのサウンドに伸びやかさと輝きのある艶感が加わると、更に音楽が大きくなるのではないでしょうか。また鍵盤打楽器の使い方にも一工夫欲しいところです。しかし、全体を通して、音楽の力に溢れた熱演だったと思います。

鹿児島市立武岡中学校
ここの指揮者も、国分中学校時代に全国大会に出場して金賞を受賞した経験を持つベテランです。課題曲2番は、テンポやリズムの安定した好演でしたが、全体的に起伏に乏しく、音楽が小さく聞こえてしまうのが残念でした。打楽器とのバランスにも更に気を遣いたいところです。全体を通して、旋律が淡々としすぎている感が気になりました。自由曲は、打楽器とのバランスも改善され、音楽の輪郭がクリアに聞こえてきました。ただ、予選でも感じたのですが、時折ピッチが不安定に聞こえてしまうのが残念でした。ユニゾンをどう合わせて聞かせるのか、九州大会までの大きな課題です。

鹿児島市立鴨池中学校
昨年に引き続いて、代表になりました。このバンドの一番の特徴は、個々の楽器がならではの美しい音色で音を奏でているという点でしょうか。特にトゥッティにおけるサウンドの調和が素晴らしく、音楽の展開が非常にクリアに聞こえてきます。ただ、そんな中でも、マーチの聞かせ方、展開のさせ方など、次なるステップにはまだ到達していていかなという印象で、より積極的な音楽作りも望まれるところです。自由曲においても、レンジの広いサウンドが心地よく響いて来ましたが、生徒の楽曲に対する理解度、分析度がまだ途上にあるという感じで、その辺りの音楽作りへのアプローチか九州大会までの課題となるでしょう。

その他、代表は逃したものの、明和中学校丁寧な音楽作りが印象に残りました。人数の関係もあってか、課題曲では、金管木管のバランスを崩していましたが、自由曲は、この人数に見合った選曲で、伸びやかなサウンドと、センスの良い音楽作りが印象的でした。来年に向けて人数が増える事を期待すると共に、この美しい音価区作りに更に磨きをかけて欲しいところです。
また、鹿児島市立紫原中学校は、有力校が人数て苦労する中、50年というフルバンドでの登場。全体の音楽としての輪郭はしっかりと作られていましたか、細かいディテールやピッチ等において、やや雑に感じられる部分が多く、その点を克服してもらいたいところです。

2014年鹿児島県吹奏楽コンクール一般の部

鹿児島県吹奏楽コンクール、一般の部を聞きに行ってきました。鹿児島には、昨今の代表常連JSB、そして宮之城という全国経験バンドが犇く中、代表枠が2団体しかないという激戦区です。
まずは、県代表バンドから。

宮之城吹奏楽
全国大会に出ていた頃から指揮者が代わり、2年目になるでしょうか。当時に比べると人数も減った感じですが、それぞれの個人技が際立つバンドという印象で、課題曲3番は、音符を丁寧に処理しているなという印象でした。ただその反面、全体を通して音楽が平面的で、抑揚や説得力に欠ける部分も見られたのは残念です。自由曲は、今年の流行り曲のひとつ。ここても堅実なアンサンブルを展開していましたが、明確に主張したい音楽が聞かれなかったのは残念です。

J.S.B吹奏楽
非常にダイナミンクレンジの広いサウンドが心地よいバンドです。課題曲5番は、このサウンドを生かして打楽器も効果的に演出していましたが、シーン毎にサウンドに変化を付けるなど、こうした楽曲に求められる色彩感に乏しかったのは残念でした。自由曲のステンドグラスは、このバンドの分厚いサウンドとのマッチング良好という感じでしたが、全体的に技巧に走る印象が強く、ひとつひとつのフレーズを大人としてどう謳いあげるのか、そんなアプローチも求められるところです。

続いて、銀賞ながら、今年初登場したバンドです。
アルモニオーソ吹奏楽
全体的に演奏技術が安定しているな、という印象で、音符をしっかりと再現できているだけでなく、弱奏での安定感や、ここの楽器の発音等、基礎がしっかりとしているサウンドが心地よかったと思います。ただ、時折音の処理が雑だったり、打楽器とのバランスを崩す等、まだまだ詰める箇所も見られたのは残念でした。自由曲においては、やや若さを露呈した感じで、それそれの場面において、しっかりと聞かせる要素は何なのか、その追求がもう一歩届いてなかったようです。しかし、全体を通して、音楽が躍動しているのが好印象で、この演奏で銀賞という評価は、厳しいですね。しかし、これを糧に、来年はどんな音楽を聞かせてくれるのか、楽しみにしていたいと思います。

というわけで、今年の一般の部の鹿児島県代表は、宮之城吹奏楽団、JSB吹奏楽団でした。鹿児島も3枠ぐらい欲しいところですね。

2014年鹿児島県吹奏楽コンクール高校の部

25日、26日と2日間にわたって開催された、鹿児島県吹奏楽コンクール高校の部を聞きに行きました。
まずは代表校の感想などを。

鹿児島県立松陽高等学校
去年から課題曲をマーチに設定していますが、非常にクリアで重厚なサウンドを持っているバンドなので、気持ちに余裕を持って吹ける選択は、長丁場のコンクールシーズンを考えると、最適な選択でしょう。今回の4番も冒頭からしっかりとアナリーゼされたクリアな音楽を展開していました。そんな中でチューバが微妙にピンポイントを外すのが勿体なかった感じです。またトリオ後、テンポダウンしてしまったために、マーチとしての前進力が失われてしまったのは残念でした。自由曲は、今年のこのバンドのサウンドに最適な選択で、終始、その技術力の高さと、締まったサウンドによるクリアな音楽が心地よく響いてきました。前半部分はもか少し音楽的な色気を持ったほうが良かったかも知れません。終盤は圧巻のアンサンブルでしたが、サウンドの色彩感に変化が出てくると,音楽がより立体的になるのではないでしょうか。

出水中央高等学校
非常に洗練された技術を持ったバンドです。課題曲2番は、ここも余裕を持って音楽を展開していましたが、全体的にバンドがひとつの歌真理となって前に進んでいる印象で、場面ごとにサウンドに色付けがなされると、より音楽がクリアになるでしょう。スネアの三連符がやや重く聞こえるのも残念でした。しかし、全体を通して非常にバランスのとれたサウンドを聞かせていました。自由曲は、冒頭のリコーダーから、非常に美しい音色と安定したハーモニーが心地よい好演でした。そんな中で、トゥッティにおいて、時折サウンドが開いてしまうのは要注意でしょう。久々の九州大会への出場です!

鹿児島情報情報高等学校
課題曲2番の冒頭から、屋比久先生が構築した中低音が安定したサウンドが、指揮者が交代しても健在なのに安心しました。そんな中、マーチがやや走り気味で、全体を通してせわしなく聞こえていたのは残念でした。また旋律と対旋律の絡みなど、更なるアナリーゼも望まれるところです。自由曲においても、重量感のあるサウンドは心地よさを放っていましたが、柔らかいサウンドとエッジのあるサウンドの対比がやや曖昧な感じで、音楽が時に平面的になってしまったようです。しかし、ここの奏者のサウンドの安定感が心地よい、トゥーランドットの世界を作り上げていたと思います。

今年の鹿児島県代表は以上の3校に決まりました。続いて、その他の金賞校です。

鹿児島県立大島高等学校
課題曲2番が抜群の名演でした。しっかりとアナリーゼが施された音楽と、安定したマーチ、場面ごとにしっかりとサウンドの色合いを変えていく演出もお見事。トリオで若干サウンドが薄くなり過ぎた感があった以外は、旋律の聞かせ方も絶妙で、ほぼ完璧な2番を会場いっぱいに轟かせました。さて、自由曲。前半の弱奏の安定感はお見事でした。が、主顕祭では、若干のサウンドの芯の弱さを露呈してしまったようで、楽曲をコントロール出来ないまま、フィナーレへとなだれ込んでしまった感があったのが残念でした。やはり、余裕を持って凌駕出来る楽曲の選択というのも、こうした激戦区においては、ひとつの大きなポイントとなるのではないでしょうか。

神村学園高等部
ここ数年、いつも書いているような気がしますが、技術を持った奏者が集まる中で、更にクリアなサウンド作りを、このバンドには求めたいところです。課題曲はマーチングでも有名校なので、しっかりとした足取りのマーチを今年も聞かせてくれました。が、自由曲はやや難易度が高すぎたのか、このバンドも自由曲を余裕を持って凌駕するにはいたっていなかったのが残念です。数年前に聞いた「英雄の生涯」のような、バンドに見合った選曲というのも求められるのではないでしょうか。

鹿児島県立甲南高等学校
課題曲4番の冒頭は、気品のあるイントロで、マーチもテンポ感の安定した心地よい世界観を作っていました。ただ、音楽の構成がやや平面的で、終始一段となって前進していた感があったのが残念です。自由曲樹は冒頭から前半部分、やや苦戦していましたが、終盤の重厚な中にもエッジのあるサウンドと音楽作りは圧巻で、ハープの使い方など、非常にバランスの取れた、極上の音楽に仕上げていました。

鹿児島県立鹿屋高等学校
非常に美しい音楽作りをするというイメージを持っている、ここ数年の鹿屋高校ですが、課題曲4番の冒頭はやや粗雑な扱いになっていたのが残念。その後の木管の旋律など、ハーモニーと旋律の歌わせ方の美しさは健在です。ただ、時にテンポが遅くなり、時にテンポアップするなど、マーチとしての推進力にブレが見られたのは残念です。自由曲は、このバンドのサウンドの美しさ全開という感じでしたが、こうした楽曲ではビブラートの巧みな使い分けというのも、場面によっては求められるところでしょう。しかし、今年も美しい音楽の世界を堪能させて頂きました!

鹿児島県立武岡台高等学校
昨年から急速に頭角を表してきた感のあるバンドです。課題曲4番の冒頭はレンジの広いサウンドが心地よく響いていましたが、木管のピッチが若干不安定だったようで、旋律がやや埋もれ気味になってしまったのは残念でした。また全体を通して見られた発音ミスも、丁寧な修正作業を施してほしかったところです。自由曲は、このバンドにエッジの効いたサウンドにマッチした好演でした。ただ、全体を通して、やや打楽器が暴走気味で、その辺りのバランスには気を使って欲しかったところです。しかし、このバンドはまだまだ過渡期。今後の更なる伸びを期待しています!

それにしても、代表団体枠が3つというのは、鹿児島県にはかなり厳しい狭き門ですね。そんな印象が更に大きく感じられた高校の部でした。

2014年度福岡支部吹奏楽コンクール

鹿児島に渡る途中、福岡に立ち寄り、2014年度吹奏楽コンクール福岡支部大会を聞いてきました。これは福岡県大会前に行われる、福岡市を拠点とした支部管轄の学校による予選です。
自分にとってもこれが今年最初のコンクール。場所は、例年ならば九州大会が行われる福岡サンパレス
今回は移動の途中という事もあり、午後一番の城東高校まで聞くことが出来ました。まずは、予選通過団体の感想など。

精華女子高等学校
去年から今年にかけて、日本でも最も話題を集めた吹奏楽部でしょうか。課題曲の冒頭から、レンジの広いサウンドが鳴り響きますが、ややサウンドがバラけた感じに聞こえていたのが気になりました。楽曲全体を通しては、よくアナリーゼされた立体的な色彩感豊かな音楽でしたが、連年はもっと締まりのある部分を持ったサウンドだったような気がします。そんな中でも、マーチの16分音符の処理等、随所で精華らしさは健在だったと思います。自由曲においても、もともと弾けまくる楽曲ではあるわけですが、全体的にサウンドの芯がブレていたのと、抑揚の付け方にやや作為的な部分が見られたのは残念でした。しかし、毎年難曲をさらりと聞かせる自力は健在です。

大牟田高等学校
4番に比べると、課題曲2番のマーチは、オーケストレーションが安定しているので、より快晴度の高さが求められるかも知れません。曲全体の流れは、余裕で譜面をさらっている部分もあって、心地よいものが感じられましたが、旋律が随所でブレたり、また終始同じカラーで平面的に音楽が進んでいくのが、勿体ないなという印象でした。トリオ後の部分もバランスのとり方にも細かい配慮が欲しいところです。自由曲のハリソンは、確か2回目でしょうか。音楽の流れや構成をよく把握している好演でした。が、随所でユニゾンにブレや発音ミスが見られたり、細かいパッセージが乱れたりなど、ひとつひとつの音が粗雑に扱われているのでは、という印象でした。しかし、持ち前の重厚なサウンドは健在です。

福岡第一高等学校
課題曲は、人数の少なさを逆手に取った感じで、全体的にスッキリと音楽が組み立てられ、アナリーゼもしっかりと行き届いているという印象でした。ただ、終始サウンドの氷上が変わらないのが、残念だったでしょうか。トリオ後の木管の絡みが更にクリアに聞こえると、音楽に説得力が増した事でしょう。自由曲は、邦人作品で、やや焦点がボヤけた感のある楽曲を選んできましたが、全体を通して、伝えたい部分、訴えたい部分がわからないままに終わってしまったかなという印象でした。音楽をよりクリアに聞かせる、積極的なアナリーゼが施される事を望みたいところです。

福岡工業大学城東高等学校
課題曲冒頭は、木管を主体としているからか、やや焦点がボヤけた印象で、その後のマーチもテンポ設定が早い為に、いわゆるマーチの世界観を聞かせる事が出来なかったようです。トリオのリズムの刻みもより正確に欲しいところ。そんいな中で、トリオ後の演出は見事で、終盤は、このバンドの特徴であるゴージャスなサウンドで心地よく締めくくっていました。自由曲は、このバンドにとっては、技術的に平易な楽曲のためか、余裕をもって音楽を展開していたのが、印象的でした。ただ、終始淡々と音楽が進んでいく感じで、特に前半部分に内包されている緊張感がうまく伝わらず、全体を通して音楽が平面になっていたのは残念だったと思います。

以上が聞いた団体の中で代表になりました。そして惜しくも代表になれなかったものの、金賞を受賞したのが、福岡県立城南高校
全体のサウンドはレンジが広く、ここの生徒達の技術力も高いようです。課題曲は全体を通して、よくアナリーゼしてあり、心地よいマーチを作り上げていましたが、随所で発音ミスが見られたり、また音の処理が粗雑な部分が見られたりしたのが、残念でした。激戦区を抜けるには、更に細かい、音への配慮が求められるところです。自由曲も、音楽の輪郭はしっかりと構築されているのですが、随所が打楽器とのバランスが悪かったり、細かい発音ミスなどが見られたのが残念でした。より丁寧な音楽の積み重ねがもラメられるところでしょう。

というわけで、福岡支部からは以下の9校が県大会に駒を進めました。
精華女子高校 4 華麗なる舞曲
大牟田高校 2 ハリソンの夢
福岡第一高校 2 時に道は美し -愛について-
福工大城東附属城東高校 3 復興
筑紫台高校 4 交響曲第2番「ロマンティック」より 終楽章
九産大附属高校 4 エル・カミーノ・レアル
中村学園女子高校2 歌劇「タイス」より
修猷館高校 2 ファントム・ドゥ・ラムール 〜幻影〜
香住丘高校 4 三つのジャポニスム
9団体って、結構門戸が開かれているような感じもしますが、福岡支部、そして続く福岡県大会はレベルが高く、同じ点に複数校がひしめく事もあるので、見方によっては非常に狭き門。
さ、これに北九州地区代表と筑豊地区代表が加わって、どこが九州大会に駒を進めてくるのか、楽しみにしていたいと思います。

全日本吹奏楽コンクール30回出場記念「屋比久勲」特別演奏会

雨と灰の降りしきる中、「全日本吹奏楽コンクール30回出場記念・屋比久勲・特別演奏会」に鹿児島市民文化ホールに足を運びました。
屋比久先生が全国大会に初めて駒を進めた1972年は、今では毎年のように吹奏楽コンクールを聞きに行く私が、唯一レギュラーとして吹奏楽コンクールに出場した年でもありました。この年1972年の中学校の課題曲は、岩井直溥氏のシンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」。
コンクールで初めてポップ・テイストを持った楽曲が課題曲になった年です。
この年、鹿児島の中学校のAの部は、私が通っていた伊集院中、前年の代表校、第一鹿屋中、常連の宮之城中、阿久根中、国分中、そしてこの年にBの部からあがって来た、城西中の6校でした。今年の参加校が62校だったのを考えると、ものすごく少なかった印象ですね。
結果は、新興バンド、城西中が鹿児島県代表となり、会場がどよめいたのを覚えています。ちなみに、このころは「夏の祭典」が予選を兼ねていました。
そして、このときに私は城西中の吹奏楽オタク君と友人になり、当時の全国大会のレコードや西部大会(今の九州大会)の録音テープなどをいっぱい聞かせてもらいました。
この前年1971年に西部代表になったのは、北九州の響南中。その西部大会での演奏を聞くと、2位の沖縄の真和志中とは、歴然とした差がありました。先日、久々に聞き直してみましたが、やはりそうでした(笑)。
で、この年1972年、響南中が選んだ自由曲は、当時の勝負曲のひとつ「スラブ行進曲」。まあ前年の差を考えると、当然響南中が代表になり、今津中とのスラブ行進曲対決が楽しめるのだろうねと、友人と話ていたのですが、彼が沖縄から戻ってきて、響南中が負けたことを知らされます。
この1972年という年は、沖縄返還の年で、西部大会は、沖縄復帰記念として沖縄で開催されました。そんなことも影響してんじゃねえの、と、友人が録音して来たテープを聞く前までは思っていたのですが、ラジカセから流れてきた演奏は、71年とは裏腹に、1位と2位には歴然とした差がありました。特に課題曲。初めてのポップテイストに順応した真和志中と、順応に失敗した響南中の演奏には大人と子供ほどの違いがあったのです。
そしてもっとビックリしたのが、自由曲のトッカータとフーガ。それ以前に出雲一中のアクロバットトッカータとフーガは耳にしていましたが、それとは全くテイストの違う重厚なオルガンサウンドによるトッカータとフーガは、吹奏楽の概念を私の頭の中で、180度変換させるに充分なものだったのです。
そして、初めて東京の普門館で行われた全国大会で、真和志中は、当時の常勝校、今津中、豊島十中、そして前年に突然金賞校に躍り出た、秋田の 山王中とともに、見事金賞を受賞します。
もうひとつの常勝校、出雲一中は、指揮者が変わった過渡期にあり、この年は銀賞でした。
この年1972年の金賞4校が演奏した課題曲、シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」は、それぞれが強烈な個性を持っていて、聞き比べるのが非常に面白かったわけですが、自由曲が、スラブ行進曲、シェヘラザード、幻想交響曲、そして真和志中のトッカータとフーガと、大曲のオンパレードだったのも、この時代の中学の部のレベルの高さを証明しています。
長くなって来ましたが、私は実はまだこのシンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」を、屋比久先生の生の指揮が聞いたことがありませんでした。いつか聞きたいいつか聞きたいと思っていた思いが、この日やっと叶ったのでした。
まあこんな思いで、この曲をピンポイントで聞きに来たという観客は、おそらく私だけだったかも知れません(笑)。
この日の演奏は、ソフィスティケートされた情報高校ならではのポップ・マーチでしたが、屋比久先生の指揮を見ながら、頭の中では、1972年の個性あふれる全国金賞4校の中でも最も清楚な響きを持っていた真和志中の「明日に向かって」が鳴り響いていました。
トッカータとフーガも同じです。真和志中のシンフォニックな木管の響きは、中学の部の吹奏楽の方向性を一気に変えたと、当時雑誌等でも絶賛されました。
この日の特別演奏会のプログラムではこの2曲だけですでにおなかいっぱいになりましたが、続いて、故兼田敏氏の「吹奏楽のためのパッサカリア」、「朝鮮民謡の主題による変奏曲」「今年の課題曲2番」「幻想交響曲」「アルプスの詩」と、吹奏楽コンクールヒットパレード的な豪華なラインナップになりました。
そしてアンコールは、かつての沖縄時代福岡時代の教え子も加わっての「エルザの大聖堂への行列」。
この曲を屋比久先生がコンクールで選曲されたことは無いと思いますが、なぜか、イコール的なイメージがありますね。
冒頭の木管の導入部、即席混成バンドながら、ピッタリと音楽のベクトルが一致していたのに驚き、終盤の金管が加わっての重厚な響きに圧倒され、シンバル隊を含む打楽器群の一糸乱れぬパフォーマンスに圧倒されました。
最後の強制万歳はやりすぎかなと思いましたが(笑)、自分自身の1972年と、屋比久先生の1972年が自分の中で一致した思い出として、この日の演奏を深く心に焼き付けておきたいと思います。
そしてまもなく訪れる全国大会での演奏も楽しみにしていたいと思います。
そう言えば、1972年当時の全国大会のアナウンスを持っているのですが、あの順番で演奏するなら、ご提供すれば良かったかな(笑)。当時と現在のアナウンスの仕方の違いもわかって、面白かったかも。

東京都吹奏楽コンクール一般の部

昨日は、中学の部終了後、一般の部を聞いてきました。

まずは代表バンドのひとつ、創価グロリア吹奏楽
課題曲5番は、個々の奏者のレベルの高さが秀逸で、音楽の組み立てが非常に明瞭な演奏でした。フレーズの受け渡しもスムースで、サウンドに立体感があったのが印象的でした。自由曲は、このバンドとしては珍しい選択肢のマインドスケープ。楽曲を構成するひとつひとつの要素を、これでもかと細かく明瞭に再現して行く手腕はお見事。らしからぬミスもあったりしましたが、そんなことが一切帳消しになるような、音楽の力強さを感じました。また中間部のダブルリードの安定感と美しさは、これまでに聞いたマインドスケープの中でも、群を抜いていたと思います。

もうひとつの代表バンドは、東京隆生吹奏楽
課題曲の3番は、予想に違わない余裕の音楽。そこまで力まなくても・・・・と思ってしまうぐらいのパワーとエッジのある音楽を展開していました。ただ、一般の部にエントリーする年齢層なら、特に中間部は、更に大人ならではの演出が出来るのではないかなと思うのですが、いかがでしょう。続く自由曲、宇宙の音楽も、その難易度を感じさせない好演でした。ただここでも、特にハルモニアでは、大人ならではの更なる高貴で重厚なバラードを演出できるのではないかと思うのですが、今回はやや淡白な印象を受けました。福岡サンパレスでの次なる展開に期待しましょう。

続いてその他の金賞バンド、まずはNTT東日本東京吹奏楽
今年は予選をギリギリで通過したと聞いてましたが゛まあ東京の予選の点数は1位以外は当てにならないので(笑)、フラットな気持ちで聞きました。職場時代はややマイルドなサウンドという印象でしたが、統合以後、年々サウンドにエッジが加わりつつあります。あと一歩何かをつかめば、そろそろ化ける日も近いのではと思わせるこの日の音楽でした。来年はその「何か」を掴んで来ることに期待したい限りです。

もうひとつの金賞バンドは、ここも常連のミュゼ・ダール吹奏楽
非常に豊かな、いや、豊か過ぎる音量をもったバンドですが、今年は、その持っているパワーを自在にコントロールして、レンジの広い音楽を展開していたのが印象的でした。もともと、技術的には高いものを持っているバンドですから、「音楽」する事を覚えれば、金賞を手にするのは、容易な事だったようです。欲を言えば、サウンドカラーのバリエーションがもっと欲しいところで、そうすれば音楽に更に説得力が加わるのではないかと思います。

さ、その他、東京大会は必然的に銀賞銅賞が付いてしまいますが、今年は例年になくハイレベルな音楽を各団体残して行きました。

銀賞バンドの中でも、プリモ・アンサンブル東京は、非常に重心のしっかり安定したサウンドが魅力的でした。これだけシンフォニックなサウンドを持っているのなら、たとえば課題曲3番と、やや古典的な自由曲の組み合わせなどの方が、面白さをアピールできたのではないかとも思いました。サウンド的には、この重厚なサウンドに、更にエッジが欲しいところです。
豊島吹奏楽は、課題曲2番がバンドのサウンドにやや合わないかなという印象でしたが、自由曲は、細かいパッセージをうねる様に聞かせる快演でした。このバンドの今のサウンドで、もっと地に足を付けた音楽も聞いてみたい感じです。

また銅賞ながら、足立吹奏楽は堅実に丁寧に音楽を紡いでいく様に好感が持てました。ラストのソウル・ソノリティは、毎年個性的な音楽の解釈を愉しませてくれますが、今年も、グラズノフの秋を独自のユニークな解釈で聞かせてくれました。こうした個性溢れる音楽に触れられるのも、東京の一般バンドの質の高さなのではないでしょうか。

というわけで、今年の一般の部の代表は、創価グロリア吹奏楽と、東京隆盛吹奏楽に決まりました。福岡サンパレスでも、高い評価をもらって来る事でしょう。期待しています。

東京都吹奏楽コンクール中学校の部

高等学校の部に引き続いて、中学の部の後半を聞きに行きました。
午前中、仕事に関する用事で聞けなかったのは少々残念。

まずは後半の部、トップバッターで見事代表に返り咲いた、小平市立第六中学校
一時期に比べると人数は少し戻ってきた印象でしょうか。課題曲3番は非常に芯のあるサウンドで、かつての勢いを取り戻したかのような快演でした。続く自由曲も、このバンドのサウンドカラーに合った選曲で、前半の緊張感溢れる演出から、終盤のうねるような音楽の展開が素晴らしい熱演でした。ただ、ステージに登場してから演奏中も殆どの奏者がうつむいたままだったのにやや違和感を感じましたが、そういう演出だったのでしょうか・・・。

続いて代表にはなれなかった、金賞バンドのひとつ、玉川学園中学
おそらく、最もゴージャスで安定した潜在的サウンドを持つバンドだと思うのですが、課題曲自由曲を通して、全体的に靄がかかったような感じで、音楽の骨組みがクリアに聞こえてこなかったのが残念でした。代表団体との差は、そこにあったのではないかと思われます。また自由曲も、中学生が全体像を理解して、音楽をアピール出来るような選択肢が他にあったのではないかと思われました。実力のあるバンドだけに、残念な結果に終わりましたが、次に期待しましょう。

そしてもうひとつの金賞バンドは、中学の部のラストを飾った中央区日本橋中学校
いったい東京都大会にここ10年ほどの間に何回駒を進めて来ているのでしょうか・・・というぐらいの常連ですね。ひとつ前の玉川がやや不明瞭なサウンドだったのに対して、このバンドは非常にストレートで、かつ楽器の響きを大事にした好演でした。ただ、全体を通して、そのサウンドのバリエーションが乏しく、場面転換に応じたサウンドカラーの変化が望まれるところです。しかし、自由曲のラストまで緊張感を保った素晴らしい音楽作りでした。

その他、去年まで代表の常連だった小平第三中学校は、今年から指揮者が変わり、現在はその過渡期でしょうか。全体を通して、発音ミスが多く見られたのが残念でした。トータルのサウンドは質の高いものを持っているので、この経験を経て、どう生まれ変わってくるのか、楽しみにしていましょう。

というわけで2013年の中学の部東京代表は、プログラム1番の羽村第一中学校と、小平第六中学校に決まりました。名古屋での活躍を期待しましょう。